大王製紙と北越紀州 複雑に絡み合った怨念 判決はどう出る?

2017年7月14日 21:40

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 製紙業界は合従連衡の歴史を歩んできた。現在の盟主で「ネピア」のメーカーである王子HDも、第2位で「スコッティ」の商品名で馴染みのある日本製紙も、第3位で段ボールのレンゴーも、過去を遡ると様々な企業の集合体である。第4位で「エリエール」のメーカーである大王製紙(社名には王子製紙を超えるという創業者の思いが籠っている)の元会長がバカラ賭博事件で危機を迎えた際、恐らく色々な思惑が業界を駆け巡ったことだろう。しかしこの事件は業界同様一族の結束により大きな影を落とした。

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 井川伊勢吉氏が昭和18年、愛媛、香川、高知の機械すき和紙メーカー14社を統合して大王製紙を創業した後、その実権は長男の高雄氏、高雄氏の長男の意高(もとたか)氏へと順調に引き継がれて行った。そしてあの事件が起きた。

 バカラ賭博事件により元会長の意高氏が姿を消したのちに、本家の長男支配に対する一族の怨念が噴出した。井川家は伊勢吉氏に4人の弟、高雄氏にも5人の弟がおり、全員が関連会社の社長を務めるなど、一族が多いのだ。おまけに、引き起こした事件の呆れるほどの中身も度肝を抜く規模も、本家から一族の離反を後押しした。その結果、高雄氏が意のままに使って来て、意高氏の後継に指名したはずの佐光社長は、高雄氏に反旗を翻し一族側へとついた。

 創業本家と一族・経営陣の対立は続いたが、高雄氏は意高氏の賠償金(大王製紙への返済金)約60億円を捻出するため、保有していた大王株の大半を仲介に入った業界第5位の北越紀州に売却した。経緯と思惑は複雑だ。北越紀州の持分は21.2%になった。

 逆に、一族(一族が役員を務める関連会社)の保有する大王製紙株は高雄・北越紀州の合計に匹敵する。それが佐光社長の後ろ盾だ。

 2016年1月28日、北越紀州が大王の経営陣を相手取って起こした損害賠償請求訴訟の第1回口頭弁論が東京地裁で開かれた。テーマは、大王が2015年9月に発表した2020年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行(300億円規模)である。この社債が株式に転換されると、北越紀州の大王に対する持ち株比率が希薄化し、大王は北越紀州の持分法対象会社から外れる。そこで、北越紀州は「株主の利益を毀損する買収防衛策」と判断して、筆頭株主の反対にもかかわらず発行を強行した佐光社長を含む13人の大王取締役に対し、任務懈怠(けたい)などを理由に損害の賠償を求めた。

 年内にも予想される判決が長年の怨念を洗い流すことはない。しかし、大王製紙が敗れれば、北越紀州を中心とした業界再編が進み第3極を形成する流れになる。一方、北越紀州は敗れても、4倍以上に上昇した大王製紙株を処分すれば多額の売却益を手に入れることができるのだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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