京大ら、かゆみを対象としたアトピーの新たな治療薬開発

2017年3月12日 10:16

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記事提供元:エコノミックニュース

 アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア障害、かゆみ、湿疹を主徴とする皮膚疾患で、慢性的に回復と悪化を繰り返し、患者とその家族の生活の質(QOL)に悪影響を与えている。また、アトピー性皮膚炎患者におけるかゆみの発生にはインターロイキン-31(IL-31)がIL-31受容体を介して関与していることが報告されており、IL-31を標的としたかゆみの治療戦略が期待されていた。

 京都大学の椛島健治 医学研究科教授らの研究グループは、九州大学、東京逓信病院、ドイツ、米国、英国、ポーランドの研究機関と共同で、アトピー性皮膚炎に対する治療薬として開発中の抗IL-31受容体ヒト化モノクローナル抗体nemolizumabに関し、安全性や有効性、最適な投与量などを調べる第 II 相国際共同治験を行った。その結果、抗IL-31抗体の臨床症状やかゆみに対する有効性が確認された。

 研究グループは、軟膏などの外用剤で十分な治療効果が得られない中等症から重症の264人のアトピー性皮膚炎患者を、4つのnemolizumab(0.1, 0.5, 2.0 mg/kg を4週間ごとに投与、2.0mg/kg を8週ごとに投与)群とプラセボ群(4週間ごと)に約50人ずつランダムに割り付けました。どのグループも薬剤・プラセボを12週間に渡り皮下投与した。

 主要評価項目である12週時のそう痒 VAS1(visual analogue scale)変化率では、nemolizumab 投与群(0.1、0.5、及び 2.0 mg/kg、4週ごと投与)は、-43.7%、-59.8%、-63.1%の改善が確認できた。プラセボ群の-20.9%に対し有意な改善効果があったという。副次的評価項目である12週時のEASI2(Eczema Area and Severity Index)変化率は、プラセボ群の-26.6%に対し、nemolizumab投与群ではグループごとにそれぞれ-23.0%、-42.3%、及び-40.9%、sIGA3の2ポイント以上の改善が認められた患者の割合はプラセボ群の10.5%に対し、nemolizumab 投与群のグループごとに 13.8%、37.5%、25.1%だった。加えて、論文電子版の supplement(補足)では活動量計による評価で、nemolizumab による総睡眠時間の増加を報告しているという。

 

 さらに、アクチノグラフを用いて患者の睡眠についても検証を行った。すると、抗IL-31受容体中和抗体の投与一週間後には、着床してから入眠するまでの時間がプラセボに比べて15分程度早くなり、安眠している時間も約20分増加した。また、投与3週後には安眠している時間がプラセボに比べ40-50分長くなることも確認された。

 Nemolizumab によるかゆみの抑制が確認されたことにより、IL-31がアトピー性皮膚炎により引き起こされるかゆみに重要な役割を果たしていることが示された。今後、IL-31の制御がアトピー性皮膚炎の新たな治療手段やQOL向上の一助となる可能性が期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)

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