【小倉正男の経済羅針盤】リグレジット(離脱への後悔)先に立たず

2016年7月8日 12:35

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

■ナポレオンの大陸閉鎖=市場困窮から戦争

 その昔、といっても210年前のことだが、ナポレオンが英国を封鎖することを宣言した。欧州諸国が英国を封じ込めて、貿易から締め出す、というわけである。「大陸封鎖令」である。  そのうち、逆に英国が海上封鎖に踏み出した。どっちが封鎖しているのか、我慢比べである。

 貿易を封鎖すれば、マーケットは小さくなるから、どっちも困ることになる。困窮すれば、争いごとになり、ついには戦争になる。

 ロシアは大陸封鎖令を破り、英国と貿易を再開した。ロシアは英国の工業製品が欲しかった。フランスの工業製品は高いし、品質が劣っていた、代替にならない――。  ナポレオンはロシアに遠征する。ナポレオンが率いた大軍のその大半は、自国に戻ることはなかった。

 アメリカは、フランスとの貿易を求めていた。英国の海上封鎖は障害となり、米英戦争に突入する。アメリカの大統領府が英国軍に焼き討ちされた。その後、大統領府は白い塗料が塗られて「ホワイトハウス」になった。

■決定的に違うのは英国の衰退

 英国のEU(欧州連合)離脱は、少し強引にいえば第二の「大陸封鎖令」のような事態である。  ただし、決定的に違うのは英国の衰退ぶりである。

 ナポレオンが英国を封鎖したのは、英国が産業革命を成功させた時期に当たる。「世界の工場」になろうとしていた。機械にしても、羊毛製品、綿製品などにしても、世界マーケットを制圧していた。

 いまの英国は、金融にしても、クルマなどの製造業にしても、「ウィンブルドン方式」である。つまり、プレィヤーは他国資本だ。クルマもトヨタや日産がつくっている。  英国は、場所を貸している。「場所貸し業」に転じている。

 英国が封鎖されても、ほかの欧州諸国はほとんど困らない。困るのは英国のみである。それがナポレオンの「大陸封鎖令」の時代との大きな違いになっている。

■リグレジット(離脱への後悔)先に立たず――自らツブれる英国

 ナポレオンやヒトラーでもツブすことができなかった英国だが、ついには衰亡にいたるのか。国というものも、誰か他国がツブすというより、自らツブれるものなのだろう。

 ブレグジット(英国のEU離脱)か、リグレジット(EU離脱への後悔)か。覆水盆に返らず――、いやリグレジット(離脱への後悔)先に立たず、とはこのことだ。

 アメリカの利上げもこれで棚上げというか、吹き飛んだ。もともとアメリカの利上げにも無理があった。為替面では円高が避けられない。

 「リーマン級の経済混乱などない」――、そう豪語していたのは独・仏・英の諸国首脳だったが、不幸にして「リーマン級」の激震になっている。  とくに日本のマーケットへの打撃は甚大だ。待たれるのは日銀の超金融緩和策というのだが、世界経済の先行きは波乱含みである。

 (経済ジャーナリスト 『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所)など著書多数。東洋経済新報社編集局・金融証券部長、企業情報部長,名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事など歴任して現職)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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