【経済分析】‘カオス’が明らかにした近代科学と経済学の限界(上)

2014年6月3日 10:49

印刷

記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【6月3日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

前回のブログでは、「初期値のわずかな違いが予測不可能な大きな違いを生み出す」というカオスが発生するために、数式による経済予測は現代原理的に不可能である、ということをお話しました。

このカオスの発見は、科学の礎となっているニュートン力学の常識を覆すものでした。なぜなら、ニュートン力学は「世界のすべての物体の運動は『ニュートンの運動の三法則』(『慣性の法則』『運動の法則』『作用・反作用の法則』)と『万有引力の法則』によって記述できる。したがって、初期値(最初の状態)がわかれば、その物体の将来の状態を完全に予測することができる」という基本的な考え方に立っているからです。

ニュートンがこの法則を使って惑星の公転に関するケプラーの法則を見事に証明したことは、自然界の複雑な現象を構成要素の単純な力学的運動に還元することによって説明しようとする、今日に至る自然科学の基本的な流れを決定付けました。

このように完璧に見えたニュートン力学の盲点を発見したのが、19世紀後半の数学者であり天文学者でもあったジュール・アンリ・ポアンカレでした。彼は、ニュートンが太陽の周りを公転する地球の軌道を計算する際に、その影響が小さいと考えて無視した木星の引力の影響をも考慮して、厳密な計算によって地球の軌道をより正確に割り出そうとしました。ところがその結果、規則正しく運行していると信じられていた太陽系が、実は不安定である(つまり、地球の軌道がある日突然乱れて太陽系から飛び出してしまう可能性を完全に否定することができない)ことを見出したのです。これがカオスの最初の発見とされています。

「運動方程式によって将来の状態が完全に予測できる」とするニュートンの力学的世界観は、「惑星の最初の位置の測定にわずかな誤差があっただけで、その後の惑星の軌道に予測できないほど大きな誤差を生み出す」というポアンカレのカオスの発見によって覆されることになったのです。

近代科学はこれまで、ニュートン力学の機械的世界観を拠り所に、全体を構成する各要素の運動を寄せ集めることにより全体の運動が説明できると考えてきました。つまり、要素の状態をデータ化して、運動方程式にそのデータをインプットして全体の動きを説明しようとしてきたわけです。

しかし、それが本当に可能であるのは神だけであることが証明されたのです。すでにみたように、要素間の複雑な相互作用が働いている世界では、要素の動きのほんのわずかな違いによって全体の動きが予想外に大きく変化してしまうカオス現象が発生するために、全体の動きを個々の要素の動きから説明することは原理的に不可能であることが判明したためです。

結局、この‘カオス理論’は全体の動きを部分の動きに分けて説明しようとしてきた近代科学のパラダイムともいうべき‘要素還元主義’に根本的な見直しを迫ることになりました。それとともに、近代科学が複雑な生命現象を解くことができない理由が明らかにされたといえます。【続】

■関連記事
【経済分析】‘カオス’が明らかにした近代科学と経済学の限界(上)
【経済分析】‘カオス’が明らかにした近代科学と経済学の限界(下)
【コラム 山口三尊】会社法改正の経緯(上)

※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

関連記事