【小倉正男の経済羅針盤】アベノミクスと眠っている新需要

2013年7月11日 09:31

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

■選挙に入ったら人身事故が多発

 参議院選挙に入ったら電車の人身事故に遭遇することが多くなった。

 経済にしても改革というものは、トップダウン事項だ。トップが、選挙で出払っているでは、改革は棚上げになる。

 電車の人身事故多発は、改革のストップや停滞と因果関係はないだろうか。

 参議院選挙の争点は、やはりアベノミクスにほかならない。

 論戦のなかで、民主党が、「アベノミクスは我々の主張していたことだ」、という理屈を何度か使っていたのには驚かされた。民主党はどこまで堕ちるのか。

■改革はトップダウンでしか進まない

 参議院選挙を挟んで、アベノミクスの第3の矢、すなわち経済の新成長戦略は進捗していくのか――。

 農業、医療、観光、エネルギー、環境と新成長戦略フィールドはすでに提示されている。

 なかでも、iPS細胞などの先端的な医療、あるいは医師に代わって手術などを行う医療用ロボットなどはこれまでにない分野だ。

 一般用医薬品のネット販売解禁は、薬局などの売り上げを減らしゼロサムになりかねない。ゼロサムでは規制緩和だと胸を張られても、あまり経済にインパクトはない。

 しかし、先端的な医療、あるいは株式会社の農業参入などは新規分野で、プラスサムな経済フィールドになる。

 こうした新規分野は、トップダウンで規制緩和を進めないと前には行かないものだ。お役所がボトムアップで進めることはありえない。

 お役所などボトムは、どちらかといえば、安全性などでリスク、不確実性があれば、ストップをかける立場になる。

 企業経営でも改革は、“日本型経営”の得意技であるボトムアップでとはいかない。日本経済、すなわち、いまの「日本株式会社」はトップダウンの経営が求められている。

■身近なところに新しい需要が眠っている

 アメリカのシスコシステムズが提唱している「IOE」(インターネット・オブ・エブリシイング)というコンセプトがある。

 これまでは、このネット市場では「IOT」(インターネット・オブ・シングス)と言われてきた。だが、そんなもではない、と歩を大きく進めたのが「IOE」である。

 すでに世界を覆い尽していると思われがちであるネット分野が、まだまだ世界経済の奥深い新成長フィールドだというのである。

 ネット分野は、いま使われているのはまだまだ揺籃期というか、とば口。これからまだずっと先にネットの本格的な活用期が来るのだ、というのである。

 例えば、日本は狭い道が多く、患者を乗せた救急車が動けないようなことが少なくない。

 しかし、信号システムを手直しすれば、救急車が患者を乗せて病院に急いでいる場合、救急車に信号のセンサーが働き、信号が止まるようにする――。

 インターネットはそんな当たり前なところにいまだ使われていないではないか――。

 既存の技術を組み合わせて新しい需要を掘り起こせる。信号システムを改良するだけで、日本全国の寝ていた新需要を呼び起こせる。「IOE」(インターネット・オブ・エブリシングス)とは、そうしたことにほかならない。

 ネットを身近なところに使い尽くしてくれというわけだ。ただし、こうした当たり前なフィールドも、トップが言い出さなければ眠ったままだ。

 ネットの世界だけをみても需要はまだまだ眠っている。こうした身近に眠っているフィールドを掘り起こしていけば、「日本株式会社」の前途は洋々、そう暗いばかりのものでない。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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※この記事は日本インタビュ新聞社=Media-IRより提供を受けて配信しています。

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