『新規公開後の株価パフォーマンス』を伊藤桂一氏に聞く=犬丸正寛の見聞記

2011年1月13日 10:39

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

新規公開銘柄の、『新規公開後の株価パフォーマンス』(東証1部直接上場銘柄)を検証した日興コーディアル証券の株式調査部次長・シニアアナリスト伊藤桂一氏に取材、同氏のレポートを紹介する。

新規公開銘柄の、『新規公開後の株価パフォーマンス』(東証1部直接上場銘柄)を検証した日興コーディアル証券の株式調査部次長・シニアアナリスト伊藤桂一氏に取材、同氏のレポートを紹介する。[写真拡大]

日興コーディアル証券:株式調査部次長・シニアアナリスト伊藤桂一氏に聞く

■上場直後の株価や出来高が極端に高い・低い場合はパフォーマンス低迷、上場後の取引<中程度>が好成績

  投資家なら誰でも、新しく株式市場に上場してくる銘柄、即ち、『新規公開銘柄』に対する関心は強い。公開売出に申し込んで当たった人、外れた人。あるいは、公開後の変動にマトを絞って投資する人。さらに、新規公開銘柄の人気波及を見込んで業態の似た銘柄に投資する人など、新規公開銘柄の動きには熱い視線が集まる。その関心度の高い新規公開銘柄の、『新規公開後の株価パフォーマンス』(東証1部直接上場銘柄)を検証した日興コーディアル証券の株式調査部次長・シニアアナリスト伊藤桂一氏に取材、同氏のレポートを紹介する。

  最近数年の新規公開銘柄は少ない。2005~07年の3年間では、REIT(不動産投資信託)も含めると合計で600近くに達していた。それが、2009年の公開件数は19件、2010年も22件にとどまっている。とくに、06年、07年頃は新興系企業の公開が顕著だったのに対し、最近では、第一生命保険 <8750> 、大塚ホールディングス <4578> などにみられるように大型の企業で、しかも、東証1部への直接上場が目立つようになっている印象が強い。この点について、伊藤桂一氏は、「東証1部へ直接上場するケースはあまり多くなく、5年間の合計で27件。2007年8月の金融危機以降では8件にとどまっている。しかし、公開件数全体に占める東証1部直接上場件数の比率は近年、高まっている」と指摘する。

  伊藤桂一氏が、「新規公開後の株価パフォーマンス」検証の対象としたのも、こうした「東証1部直接上場銘柄」だ。その理由は、「東証1部への直接上場には、たとえば、流通株式数や見込み時価総額などの要件を追加的に満たす必要があり、結果的に個別要因が少なくなる」(伊藤氏)。つまり、新興系銘柄などの場合は、発行株数が少ないため、値動きが荒いうえに、後継者のことなど、個別的な要因が多く含まれ、パフォーマンス分析が難しい。

  前置きはこの程度にして、気になる公開後の株価パフォーマンスについて、伊藤桂一氏に概要を語ってもらおう。なお、伊藤氏は、『公募価格と上場後の価格との乖離率』、『上場後の出来高と公募株数の比率』について検証。さらに、初値だけでなく、動きが落ち着く『上場5営業日後の終値』を基準としてTOPIXとの対比で経過を観察している。その結果を次のように語る。

  「公募価格から初値までの初値乖離率で分類した場合、上場後30営業日間(約1ヵ月半)では、それほど大きなパフォーマンス格差はみられないが、それ以降では大きな格差が生じる。初値の代わりに5営業日後の終値を利用した場合、傾向は初値乖離率と同様だが、乖離率が高い案件では当初30営業日のパフォーマンスの良さが際立っている。公開株数に対する初日の出来高の比率で分類した場合、傾向は初値乖離率と非常によく似ているものの、低回転率の案件で長期のパフォーマンスが高い傾向が顕著にみられる。初日の出来高の代わりに5営業日間の出来高合計を利用した場合、回転率が中程度の案件のパフォーマンスが高まった」ということだ。

  要約してもらうと、「いずれのケースでも、上場直後の株価や出来高が極端に低い場合や、逆に、極端に高い場合にパフォーマンスが低迷する傾向がみられる。上場後の株価が若干上昇するか適度に流動性が確保される場合にはパフォーマンスが堅調という傾向がみられた」という。

  もう少し、噛み砕いてお願いしますと向けると、「上場直後に大商いとなるケースでは、短期的にはパフォーマンスが期待できる。しかし、30営業日を超えるとパフォーマンスが低下する傾向がみられる。反対に、上場直後の売買が低調だった場合には、市場を大きく下回ることはないものの、上回るケースも少ない。上場後の商いが<中程度>の場合が最もパフォーマンスは安定的」ということだ。要は、上場時(上場5日間も含め)の、出来高が多い少ないがポイントとみておけばよいということだろう。

  この結論は東証1部直接上場銘柄についてのこと。しかし、新興系銘柄の新規上場の際にも、厳密ではないとしても、かなり参考となるだろう。昨年4月1日に東証1部へ直接上場した第一生命保険。上場前から高人気だった。公開価格14万円に対し、初値は16万円と公開価格を14.2%上回った。直後、高値16万8800円までつけたものの、一転、下げに転じ、11月5日の9万6700円まで高値から約43%、日柄で7ヶ月下げた。その後、現在では13万9100円とボトムから約4割戻している。上場時、大商いとなった後に大きく下げた動きは、まさに検証通りの展開だろう。しかも、安値水準を待って買った人は、その後の戻りで好成果を挙げているわけだ。

  また、昨年12月15日に東証1部に直接上場の大塚ホールディングスは、公開価格2100円に対し2170円で寄り付き、同じ日に2234円まであったものの、12月17日には2000円を割って1930円まで下げた。同社株についても前評判が高く初日が大商いだった反動とみることができるだろう。

  こうしてみると、新規公開銘柄については、上場後の安いところを仕込むのも一つのやり方といえそうだ。もちろん、その場合は、上場時に大商いをやった場合である。とくに、下値仕込みのメドとしては、案外、新規公開株にも、高値から、『3割高下に向かえ』の教えが通用するとみることもできそうだ。先行き、東京メトロなど大型の新規公開が期待されるだけに参考としたい。(執筆者:犬丸正寛 株式評論家・日本インタビュ新聞社代表)

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