DHAやEPAなど5種の機能性脂肪酸量を同時に高めた珪藻の育種に成功

プレスリリース発表元企業:NTT株式会社

配信日時: 2026-07-07 19:15:31

~天然資源由来の魚粉・魚油に頼らないサステナブルな次世代養殖飼料の開発を加速~



発表のポイント:
- 養殖飼料として世界的に重要な珪藻(※1)を対象に、DHA(※2)やEPA(※3)などの飼料として重要な機能性脂肪酸(※4)の含量を同時に増加させ、細胞当たりで最大1.8倍まで向上させることに成功しました。
- これにより、DHAやEPAなどの特定の脂肪酸量を増加させるような従来の育種(※5)法で問題となる、飼料中の脂肪酸バランスの低下を防ぎながら、複数の脂肪酸量を大きく増やすことができます。
- 本珪藻株(※6)を高い機能性をもつ原料として利用することで、魚粉・魚油の代替となる養殖飼料開発を加速し、サステナブルな水産業の実現をめざします。

 NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、独自の育種技術により、養殖飼料に重要なDHAやEPAなどの5種の機能性脂肪酸の含量を同時に高めた珪藻の育種に成功しました。これまで、特定の脂肪酸を増加させると他の脂肪酸とのバランスが損なわれるという課題がありましたが、本成果により、そのバランスを低下させずに複数の重要脂肪酸量を向上させることが可能となりました。本成果は、藻類由来飼料素材の実用化を促進するとともに、魚粉や魚油に依存しないサステナブルな水産養殖飼料の開発に向けた基盤となります。 

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図1. 藻類代替飼料の特徴およびその研究開発における課題と本成果の概要


1.背景
 現在、世界人口の増加や食文化の変化を背景に、水産物の需要は拡大を続けています。一方で、地球温暖化などの環境変化により、天然資源に依存した漁獲は安定性を失いつつあります。こうした状況の中、養殖による水産物生産は急速に拡大し、現在では世界の水産物供給の約60%に達すると言われています(※7)。
 養殖には飼料が不可欠ですが、その主要な原料である魚粉や魚油の多くは、天然の小型魚に由来しています。小型魚は海洋生態系を支える重要な生物であり、その過度な利用は環境負荷の増大につながります。こうした背景から、魚粉・魚油に代わる、サステナブルな飼料原料の開発が求められています。
 珪藻と呼ばれる藻類は、天然の生物資源に依存せずに生産可能であり、養殖飼料として重要なDHAやEPAなどの機能性脂肪酸を生成するため、有望な代替候補の一つです。しかし、珪藻を代替原料として実用化するためには、これらの脂肪酸の含量をさらに向上させる必要があります。本研究ではこの課題を解決するため、魚粉・魚油を代替し得る珪藻の育種に取り組みました。

2.本技術のポイント
 これまで、珪藻の育種研究では、主にDHAやEPAなど特定の脂肪酸の量を遺伝子組換え技術によって個別に向上させる試みが行われてきました。一方で、脂肪酸は細胞内でつくられる過程が相互に関連しており、特定の脂肪酸を増加させると、他の脂肪酸の量や組成に影響を及ぼすことが一般的に知られています。その結果、飼料としてのバランスが崩れてしまうことが懸念されます。
 本研究では、養殖現場で餌料として広く利用されている海洋性珪藻であるキートセロス・グラシリス(Chaetoceros gracilis)(※8)を対象としました。本珪藻に対してNTTの独自技術により遺伝子変異(※9)を導入し、その中から特定の脂肪酸に限定しない選抜基準を新たに設定することで、候補となる株を取得しました。

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図2. 珪藻株の育種フロー


3.育種の成果
 得られた候補株について脂肪酸の組成および含量を解析した結果、魚介類にとって重要な脂肪酸であるDHAやEPAに加え、α-リノレン酸(※10)、ジホモ-γ-リノレン酸(※11)およびリノール酸(※12)といった成長や生理機能に関与する複数の機能性脂肪酸の含量が同時に増加しており、細胞当たりで最大1.8倍まで向上させることに成功しました。また、これらの育種株は遺伝子組換え技術を適用しておらず、遺伝子組換え生物に課される規制の対象外です。そのため、商用化において審査・届け出などの制約が大幅に低減し、実用展開や社会実装に向けたハードルが低いことも大きな特長です。

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図3. 育種元の株と育種株における脂肪酸合成量の比較


4.今後の展開
 今回育種した珪藻株は、天然資源に依存した飼料からサステナブルな飼料への転換を促す重要素材となるものです。今後はこれらの藻類を用いた飼料の性能評価を加速していきます。さらに、本珪藻株で増加した脂肪酸は高機能性サプリメントなどにおいても重要なため、養殖飼料以外での幅広い領域での応用が期待されます。また、本育種技術は藻類の栄養価を高める共通基盤として、他の藻類にも展開可能と考えられます。今後は、対象とする藻類種の拡大と用途開発を進めることで、多様な産業における高機能素材としての利用を広げ、さらなる環境負荷の低減に貢献していきます。

5.関連する過去の報道発表
・2021年11月12日 海洋の二酸化炭素減少をめざしNTTとリージョナルフィッシュが実証開始~世界初、生態系への影響がない環境下でゲノム編集技術を藻類と魚介類の炭素循環に応用~
・2023年2月9日 藻類の二酸化炭素吸収量を画期的に向上させる遺伝子を特定
・2024年7月4日 世界初、中性子線照射による藻類の品種改良技術を確立~バイオ燃料原料の油脂生成量を最大1.3倍に増加させることに成功~

【用語解説】
※1.珪藻:地球上の純一次生産の最大20%に寄与するとも言われる藻類の系統です。養殖産業では、主に種苗生産時の飼料として広く利用されます。
※2.DHA:ドコサヘキサエン酸。魚介類の成長や免疫機能、ストレス応答などに関与する脂肪酸です。
※3.EPA:エイコサペンタエン酸。魚介類の成長や免疫機能、炎症応答などに関与する脂肪酸です。
※4.機能性脂肪酸:生体内で調節作用を示し、健康維持や疾病予防・改善に関与しうる脂肪酸をさします。
※5.育種:遺伝子の変化によって性質が変わることを利用し、生物を人間にとって有用となるように改良することをさします。
※6.株:微生物や微細藻類などにおいて同一系統の集まりをいいます。
※7.The State of World Fisheries and Aquaculture 2024
※8.Chaetoceros gracilis:ツノケイソウとして知られる単細胞性の浮遊珪藻で、稚エビや二枚貝の飼料として世界的に使われています。
※9.遺伝子変異:遺伝子を構成するDNAの塩基配列が本来の配列と異なる状態になることをさします。遺伝子変異の結果、遺伝子から作られるタンパク質の機能が変化されます。
※10.α-リノレン酸:DHAやEPAの合成に利用される脂肪酸で、それらの不足を補う補助的な役割を果たします。
※11.ジホモ-γ-リノレン酸:近年研究が進められている脂肪酸で、ヒトを対象にした研究においては、抗炎症・抗アレルギー作用をもたらす可能性が示されています。
※12.リノール酸:魚介類の成長や脂質の代謝に関与する脂肪酸です。

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