企業間の実験データ連携のための秘密計算技術の実証を開始
配信日時: 2024-12-03 13:00:00
~データ連携によりAIモデルの能力を飛躍させ新価値創出に道筋~
日本ゼオン株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:豊嶋 哲也 以下、ゼオン)は、このたび異なる企業間の実験データを連携させることに成功し、新たに構築されたAIモデルの物性予測性能が向上することも実証しました。今後は、本取組みをさらに進化させ、秘密計算技術※1の実装を目指します。将来、今回の技術が確立された際には、「異なる企業が互いのデータを秘匿化したまま共有できる」だけでなく、「高い予測精度を保ったAIの実現」が可能となり、研究開発の飛躍的な加速と効率化を通じ、個社の取り組みを超えた新たな価値の創造が期待されます。
1. 本取り組みの背景
現在、我が国の素材産業で蓄積されてきたデータは、各企業独自のデータ基盤の下での活用に留まっていますが、国際競争力強化のためには企業や業界の垣根を超えたデータの集約と活用が求められています。一方、各々異なるデータを連携・活用するには、「データの秘匿性」と「予測精度の向上」が大変重要です。
ゼオンでは、総合開発センターを中心に、企業間をセキュアにつないだ上でデータ連携によって強化されたAIモデルの活用を可能にするデータプラットフォームの構築を目指し、2021年から自社実験データへのマテリアルズインフォマティクス(MI)の導入、さらに2023年からはMIへの秘密計算技術実装の検証を進めています。今回、秘密計算技術を介さない範囲ではありますが異なる企業間のデータ連携に成功し、さらにAIモデルの予測性能の向上まで確認できました。これは上記構想の実現可能性を一部示したことになり、続く秘密計算技術の実装に向けた取り組みに大きな動機を与えるものとなります。
2. 今回の成果
今回の検証において、以下2つの成果を得ました。
1) 異なる企業間のデータ連携とAIモデル活用による可視化
今回、ゼオンとZeon Chemicals L.P. (米国ケンタッキー州、代表者:Michael Recchio 以下、
ZCLP社)間の合成ゴムに関する実験データを繋げることに成功しました。ZCLP社は、合成ゴムをは
じめとするエラストマー製品の製造・開発を手掛けるゼオンのグループ企業ですが、データ管理は
ゼオンから完全に独立しており、今回の実験データ連携は仮想的な企業間データ連携事例と捉える
ことが出来ます。
例えば、配合物の種類や記名ルールが異なっている状況でも、独自の変換プログラムを適用し、デ
ータ連携を実現させることに成功しました。ゼオンデータベースに無いZCLP独自の配合剤は、含
まれる成分や基本的な物性値など科学的データを調査し紐づけることで連携後のデータベースの質
向上を実現し、結果的に7,000水準以上の配合データベースが出来上がりました。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/103820/61/103820-61-5705d6577d906d6c7090c93889666bc0-576x572.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:ゼオン、ZCLP社それぞれの主成分分析マップ
また、データ連携前後それぞれのデータセットにてAIによる機械学習を行い、互いのデータ分布を
主成分分析によって可視化しました。図1に示す通り、互いの手薄なデータ領域を補間し合ってい
る一方で、互いの領域が離れすぎてもおらずデータ連携の有効性が示されています。
2) データ連携によるAIモデルの予測性能の向上
上記で連携した両社データを基に訓練されたAIモデルを用いて、ゴム物性値(Hardness)に対する
予測値を実測値と比較した結果、各社単体のデータに比べ、連携されたデータの精度の方が向上し
ていることが確認できました。
図2はゼオンとZCLP社のデータを種々組み合わせて訓練されたAIモデルによるZCLPデータに対す
る実測値vs.予測値プロットになります。1.はZCLPデータの半分を訓練データにしたケース、2.は
ゼオンの全データを訓練データにしたケース、3.はゼオンとZCLPの両データを訓練データにした
ケースですが、3.の連携されたデータによって訓練されたAIモデルの二乗平均平方根誤差が最も小
さく、精度の向上が確認されました。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/103820/61/103820-61-ebe0590e2c596c936511172dd6f03ae4-1053x460.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2: AIモデルによる実測値vs.予測値プロットと二乗平均平方根誤差
※二乗平均平方根誤差(RMSE: Root Mean Square Error):
モデルより予測された値と観測された値の間の差として使用される尺度。数値が小さいほど良いとされている。
3. 今後の展開
企業間データ連携において最大の障壁となる秘匿性を担保する秘密計算技術について、SBテクノロジー株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長 CEO:阿多 親市)と連携し、本格検証を進めます。具体的には、秘密計算技術のひとつであるTEE※2を介したデータ連携、AI解析システムを実際に構築し、今回の成果を再現することでその実現性を検証します。
ゼオンはゴムのベストオーナーとして、まずはゴム業界における秘匿化されたデータプラットフォームを構築・提供し、多岐にわたるゴム関連企業の研究開発データを集結させることで、これまでにない大きな価値提供が出来ると考えています。また、本取組みは、ゴム材料以外への水平展開も可能であり、将来的には各材料に拡大し、本取組みを新たなビジネスとして展開することも視野に入れています。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/103820/61/103820-61-0fcfbccc0ce46ce9c6795e8af25d3f22-3118x942.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
ロードマップ
[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/103820/61/103820-61-727c8abe4403e92a58e9793a715690d5-2803x886.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図3:異なる2社が互いの実験データを秘匿化したまま持ち寄ることで能力を飛躍させたAIモデルを共有するイメージ図
ゼオンは、これからも独創的な技術・製品・サービスの提供を通じ、「持続可能な地球」と「安心で快適な人々の暮らし」に貢献するべく、自社内に留まることなく、研究開発の効率向上およびビジネスモデル変革を牽引し、サプライチェーン全体を巻き込んで更なる発展に貢献してまいります。
※1 秘密計算技術:データを暗号化したまま計算処理を行う技術。これにより、データの機密性を維持しつつ、安全に計算処理を実行できる。
※2 TEE:ハードウェア上の隔離された実行領域内で秘密にしたいデータとデータを処理するプログラムを実行させる技術。ハードウェア方式の秘密計算技術の一種。
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