【岡山理科大学】神経ペプチドCGRP抑制は動脈硬化マウスの症状を悪化させる

プレスリリース発表元企業:学校法人加計学園

配信日時: 2024-08-29 09:40:00




発表のポイント


・カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が欠損すると動脈硬化モデルマウスの病態が悪化
・CGRP抗体医薬投与では初期の動脈硬化が悪化傾向に


発表概要


 岡山理科大学の橋川成美准教授、橋川直也准教授らの研究グループは、動脈硬化モデルマウス(apoE欠損マウス)にカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を欠損させたダブルノックアウトマウスを作製し、知覚神経に含まれる神経伝達物質であるCGRPの動脈硬化に対する影響を検証しました。その結果、CGRPが炎症性サイトカインTNFαの産生を抑制し、マクロファージの機能を調節することで、アテローム性動脈硬化の初期の進行に抑制的に働いていることを明らかにしました。さらに片頭痛薬として使われているCGRP抗体医薬品(ガルカネズマブ)の投与では、アテローム性動脈硬化の初期病変を悪化させる傾向が胸部大動脈で観察されました。これらの結果は、CGRPが動脈硬化に予防的に働く新しい知見であり、CGRP阻害がアテローム性動脈硬化症の進行を誘発する可能性があることを示唆しています。
 この研究結果は2024年8月8日、英国科学誌「Scientific reports」(Nature Publishing Group)に掲載されました。
本研究は、公益財団法人ウエスコ学術振興財団の助成によって行われました。


掲載論文はこちらから閲覧できます : https://doi.org/10.1038/s41598-024-69331-5


研究の背景


 動脈は加齢や血液中のコレステロールにより硬くなり、動脈硬化になります。血管壁におかゆのような粥腫(アテローム)がつくられ、血流が滞り、さまざまな心血管疾患の原因を引き起こします。一般に動脈硬化症は、炎症を促進するマクロファージに大きく依存する慢性進行性炎症疾患と考えられています。
 カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は知覚神経に含まれる神経伝達物質であり、強力な血管拡張作用、血管透過性の亢進、片頭痛を引き起こす物質であることが知られています。一方でCGRPは細胞保護作用があり、炎症性サイトカインを抑制することが以前より報告されていました。しかし、CGRPのアテローム性動脈硬化に対する作用は不明なままでした。そこで、私達はCGRPが動脈硬化に対する影響を明らかにするため、アテローム性動脈硬化モデルとして一般的に使用されているapoE欠損(ノックアウト)マウスにCGRPを欠損させた、apoE/CGRPダブルノックアウトマウスを作製し、アテローム性動脈硬化病変への影響を観察しました。


画像 : https://newscast.jp/attachments/LDwo9fHSIoLKljQi45Kv.png


研究内容と成果


1)CGRP欠損は動脈硬化の形成を促進する


 apoEノックアウトマウスと比べるとapoE/CGRPダブルノックアウトマウスにおいて、動脈の脂質沈着量が増加し、マクロファージの遊走能悪化と、炎症性サイトカインTNFαの発現量を増加させました。
 CGRP欠損によりマクロファージのTNFαの増加が見られたため、TNFαを阻害する抗体医薬、エタネルセプトをapoE/CGRPダブルノックアウトマウスに投与しました。すると脂質沈着の減少、マクロファージの遊走能が抑制され、特に大動脈のアテローム形成初期に保護的に働くことが分かりました。


2)CGRP抗体医薬(ガルカネズマブ)投与によるapoE欠損マウスの動脈硬化は悪化傾向


 これまでは遺伝的にCGRPを欠損させたマウスを評価してきましたが、後天的にCGRPを抑制する薬物を投与しても同様に動脈硬化の悪化が観察されるかどうかを評価するため、CGRP抗体医薬(ガルカネズマブ)を動脈硬化モデルのapoEノックアウトマウスに2週間投与し、初期のアテローム形成に影響するかどうかを検証しました。ガルカネズマブは片頭痛発作の治療薬として使用されている薬物で、CGRPに結合して、CGRPの生理作用を阻害する働きがあります。その結果、大動脈起始部内膜肥厚やマクロファージの機能に変化はありませんでしたが、胸部大動脈において脂質沈着の増加傾向が見られました。
 以上の結果から、CGRPは血管を保護する役割をもっており、CGRPを欠損あるいは抑制させると、初期の動脈硬化形成を悪化させることが明らかになりました。これは、動脈硬化症治療において、新たな治療戦略を構築する際の重要な手掛かりとなると考えられます。


今後の期待


 本研究ではCGRP抑制により引き起こされる動脈硬化の悪化が、TNFαの増加を介したこと、さらにCGRP抗体医薬投与においても動脈硬化の進行を促進する可能性が示唆されました。これらの結果より、CGRPを増加させることで動脈硬化を改善する新しい治療法の開発が期待されます。
【原著論文情報】Narumi Hashikawa-Hobara, Shota Inoue, Naoya Hashikawa, “Lack of alpha CGRP exacerbates the development of atherosclerosis in ApoE-knockout mice” scientific reports


(本件に関するお問い合わせ先)
 
橋川成美 (岡山理科大学 理学部 臨床生命科学科) TEL: 086-256-9719
Email: hashikawa-hobara@ous.ac.jp

補足説明


1. ダブルノックアウトマウス
遺伝子操作によって二つの特定の遺伝子を欠損させたマウス。二つの遺伝子が同時に機能しない状態での、生物学的影響を研究することができる。
2. TNFα
炎症性サイトカインの1種。マクロファージなどの免疫細胞から分泌され、感染や組織損傷において、他の炎症性サイトカイン(IL-1やIL-6)の産生を誘導し、さらなる炎症反応を促進する。
3. 抗体医薬
特定の抗原(タンパク質)に結合するように設計された抗体を医薬品として使用するもの。ターゲットとするタンパク質に特異的に作用することで、副作用が少ない利点がある。
4. エタネルセプト
TNFαを標的とする抗体医薬品。関節リウマチや若年性突発性関節炎などに使用される。
5. ガルカネズマブ
CGRPを標的とする抗体医薬品。片頭痛発作の発症抑制に使われる。


岡山理科大学 : https://www.ous.ac.jp/




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