バイリンガル教育が母語の言語処理に与える影響 海外の論文『二言語併用プログラムにおけるイマージョン教育は、子どもの母語の言語処理を妨げない』に関する記事を公開

プレスリリース発表元企業:ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所

配信日時: 2024-07-26 13:00:00

ポール・ジェイコブス研究員 (2019年に早稲田大学で開催されたセミナーにて撮影)

ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(所在地:東京都新宿区、以下:IBS)では、グローバル化社会における幼児期からの英語教育の有効性や重要性に関する情報を、IBSのホームページ上で定期的に発信しています。
今回は、ウィスコンシン大学マディソン校のNeveu博士らによる論文『二言語併用プログラムにおけるイマージョン教育は、子どもの母語の言語処理を妨げない(IBS訳)』(Neveu et al., 2023)について、ポール・ジェイコブス研究員が要約・考察する記事を公開しました。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/404001/LL_img_404001_1.png
ポール・ジェイコブス研究員 (2019年に早稲田大学で開催されたセミナーにて撮影)

<記事のまとめ>
■【研究概要】バイリンガル教育が小学校卒業までに子どもの第一言語に悪影響を与えることはない
Neveu博士らが発表した研究(Neveu et al., 2023)は、「社会の多数派言語を第一言語とする生徒たちの場合、一つの言語のみを使う学校に通っているモノリンガルの子どもたちと比べて、学校での1年間のバイリンガル教育によって母語がどのような影響を受けるか」という点を調べたものです。
調査の対象は、アメリカ・ウィスコンシン州出身でバイリンガル(スペイン語 - 英語)教育プログラムに4~5歳のときから通う生徒たち(バイリンガル群)と、一般的な英語のみの教育プログラムに通う生徒たち(モノリンガル群)です。生徒たちの平均年齢は9歳でほとんどが小学3年生。母語は英語です。調査の1年目と2年目に2回、語彙と文法の知識を測るテストが行われ、バイリンガル群とモノリンガル群が比較されました。
この研究では、語彙処理と文法処理の正確さとスピードに差は見られなかったことから、学校で第二言語に触れることによって第一言語が悪影響を受けないことが示されました。

■【研究結果】バイリンガルの生徒は、最初は言語処理の反応スピードが遅かったものの、最終的にはモノリンガルの生徒と同等の言語
この研究における語彙の処理能力を測るテストで注目すべき点は、回答の正確さを二つのグループ間で比較したところ、統計的に有意な差が見られなかったことです。この結果から、研究者らは、語彙判断の正確さという点では、モノリンガル教育とバイリンガル教育、どちらの教育アプローチも決定的な優位性はないと結論づけました。
反応時間を見ると、1年目ではモノリンガル群の子どものほうが反応が早く、語彙処理のスピードがより効率的であることが示されました。しかし、バイリンガル群は2年目には反応時間が大幅に短縮され、モノリンガル群に追いつきました。このパターンは、バイリンガル群の子どもたちがモノリンガル群の子どもたちよりも調査期間中に語彙処理の効率性が大きく伸びたことを示しています。
文法の処理能力を測るテストでは、モノリンガル群もバイリンガル群も、1年目から2年目にかけて文法処理能力の向上が見られました。この向上は、子どもたちが受けている言語教育のモデルに関係なく、言語発達が自然と進んでいたことを意味します。さらに、文法性判断課題の反応時間が二つのグループで同程度であったことから、バイリンガル教育は文法性を判断する能力の発達に悪影響を与えないという説が裏づけられました。

■【考察】バイリンガル教育で言語の習熟度を高めるということは長期間にわたって続くプロセスであり、母語の言語処理に悪影響を与えることはない
なぜ、この研究ではバイリンガル群とモノリンガル群で差が出なかったのでしょうか。この研究者らは、長期にわたってバイリンガル教育が継続されたことだけでなく、その数年間を通じて英語(母語)のインプットが増えたことが今回の結果をもたらしたとの考えを示しています。
二言語の発達は時間がかかるものであり、非現実的な期待を抱いて急いではならないことを強調することが大切です。Cummins(2021)は、第二言語において学業に必要な言語能力を身につけるには5~7年かかると指摘しています。今回レビューした研究は、先行研究の結果の多くを裏づけるものであると同時に、第一言語の処理における速度と正確さがバイリンガル教育によって悪影響を受けないことを示すものでもあります。
教育関係者や保護者にとっての差し迫った懸念事項は、バイリンガル教育が日本の子どもたちの母語(第一言語)能力にどのような影響を与える可能性があるか、ということです。しかし、今回取り上げた研究は、一連の研究とともに(この議論についてはBaker & Wright(2021)を参照)、バイリンガル教育が母語の発達に悪影響を与えないことを一貫して実証しています。


【著者Profile】
・ポール・ジェイコブス研究員
PG Cert (post-graduate certificate) Oxford Brookes University 2023年卒、M.A. (修士)University of Colorado at Boulder 2011年卒、 B.A.(大学)University of Colorado at Denver 2008年卒。2012年にワールド・ファミリー株式会社に入社。2016年からワールド・ファミリー バイリンガルサイエンス研究所に参画し、研究活動を行う。

※詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記の記事をご覧ください。
https://bilingualscience.com/introduction/2024062601/


【ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(IBS)について】
所在地 : 〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7
パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設立 : 2016年10月
事業内容 : バイリンガリズムや英語教育に関する調査及び研究
ホームページ : https://bilingualscience.com/
公式X(Twitter): https://twitter.com/WF_IBS


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