関連記事
米国防総省、「捕獲」に非対応の軍用衛星を除去する「DaaS」開発で3社を選定

(Nasa.gov)[写真拡大]
米宇宙開発局(SDA)と国防イノベーション部門(DIU)は、捕獲を前提に設計されていない軍用衛星を自律的に捕獲し、軌道から離脱させる技術の開発に向け、民間3社を初期設計段階の契約先に選定した。低軌道で衛星とデブリが増加するなか、米軍は寿命を迎えた衛星の能動的除去を民間サービスとして調達する「DaaS(Deorbit-as-a-Service)」の確立を目指す。各社は基本設計審査とリスク低減作業を進め、SDAとDIUが技術成熟度、ミッション計画、日程、費用を評価したうえで、軌道上実証に進む案を選ぶ。
■衛星が回避できなくなれば「2.8日」で重大衝突の可能性
2025年に公表された「CRASH Clock(Collision Realization and Significant Harm Clock)」研究は、衛星運用者が衝突回避機動や状況把握能力を一斉に失った場合、低軌道で重大な衝突が発生するまでの時間を推計している。この指標は2018年時点の121日から、2025年6月時点では2.8日まで短くなった。衛星メガコンステレーションの拡大により、回避システムに障害が起きた場合の余裕が大幅に減少したことを示す数値だ。
これは、低軌道が2.8日後に自然に崩壊することや、その期間内に回復不能な連鎖衝突が完成することを意味しない。大規模な太陽嵐、通信・測位システムの障害などによって衛星が回避能力を失った場合、短期間でデブリを生む重大衝突が起き得るというリスク指標である。
1978年にNASAのドナルド・ケスラー氏らが示した「ケスラー・シンドローム」は、軌道上の物体密度が高まり、衝突で生じた破片が次の衝突を引き起こすことで、デブリが長期的に増え続ける状態を指す。重大衝突が直ちにこの状態を完成させるわけではないが、制御不能の大型物体を減らすことは、将来の衝突と破片発生の危険を抑える手段となる。
Air & Space Forces Magazineなどの報道によると、SDAとDIUが選定したのはFirefly Aerospace、D-Orbit Space、Katalyst Space Technologiesの3社だ。3社は、衛星整備の歴史でも例が限られる、捕獲用の装置を持たない「非協力的な衛星」への安全な接近、捕獲、軌道離脱を実現する設計を競う。
今回の初期契約は、基本設計審査(PDR)とリスク低減作業を対象としている。報道では3社への初期契約総額が約840万ドル(約13億3,560万円、1ドル=159円換算)とされる一方、D-Orbitは自社の契約について最大2,400万ドル(約38億1,600万円)と発表している。金額には条件付きの後続段階などが含まれる可能性があり、初期作業だけの支払額とは限らない。
■なぜ「非協力的な衛星」の捕獲は極めて難しいのか
これまでの軌道上サービスには、運用中の衛星を対象とし、形状や姿勢が把握できるミッションや、あらかじめ接続に利用できる構造を備えた対象が多かった。これに対し、DaaSが想定する対象は、専用のドッキングポートや把持機構を持たず、通信や姿勢制御ができないまま回転している可能性もある。
こうした衛星を自律的に捕獲するには、カメラやLiDARなどを使って対象の形状、位置、姿勢、回転状態を推定し、安全な接近経路を生成する必要がある。捕獲機は対象の運動に合わせながら接近し、衛星本体の構造部など、接触を前提としていない場所を損傷させずに把持しなければならない。接触時に過大な力を加えれば、衛星を破損させて新たなデブリを生む危険がある。
経済性も大きな課題だ。例えば、1,400万ドルの衛星を除去するために1億ドル規模の専用ミッションが必要なら、継続的なサービスとしては成立しにくい。標準化した宇宙機を複数の任務に利用し、1回の打ち上げで複数の衛星を処理できる構成にすることが、1機当たりの費用を引き下げる鍵となる。
■競争に挑む3社の特徴とアプローチ
Firefly Aerospaceは、2025年3月に月着陸機「Blue Ghost Mission 1」の着陸を成功させた。同社は今回、軌道上輸送機「Elytra」を利用する設計を提案している。Elytraは対象衛星への接近、近傍運用、状態確認、軌道離脱に必要な機動を担い、Fireflyのロケットや月着陸機で使われたアビオニクス、複合材構造、推進システムなどを活用する。
Fireflyは別のDIU契約でも、Elytraによる低軌道での宇宙領域把握ミッションを計画している。このミッションは早ければ2027年の打ち上げを予定しており、軌道上での機動や近傍運用に必要な技術実証につながる。
イタリアの宇宙物流企業D-Orbitの米国法人であるD-Orbit Spaceは、TransAstraおよびFalcon Exodynamicsと連携して設計を進める。同社は軌道間輸送機「ION Satellite Carrier」の運用実績を持ち、DaaSを将来の衛星検査、位置変更、修理、燃料補給などを含む軌道上物流サービスへ広げる構想を示している。
Katalyst Space Technologiesは、NASAの「ニール・ゲーレルス・スウィフト観測衛星」に接近して捕獲し、低下した軌道を引き上げるLINKミッションを進めている。LINKはNASAとの3,000万ドルの契約に基づいて開発され、2026年7月3日に打ち上げられた。
LINKは試運転中に3基あるリアクションホイールのうち2基が使用不能となり、機体が回転して通信も断続的になる問題が発生した。Katalystは電気推進スラスターを使って回転速度を低下させ、8月11日には残されたアクチュエーターに対応する新しい姿勢制御ソフトウェアのアップロードに成功した。記事公開時点では、スウィフトへの接近と捕獲を目指して軌道調整を進めており、ミッションの成功はまだ確定していない。
KatalystがDaaSに提案する「NEXUS」は、ランデブー、捕獲、推進、宇宙機制御を共通の構成にまとめたロボット宇宙機である。同社によると、1機で複数衛星の捕獲・軌道離脱や、異なる種類の軌道上サービスを実施できる設計を目指している。
■米軍が進めるPWSAと「サービス購入」モデル
DaaSの直接的な対象となるのが、SDAの「Proliferated Warfighter Space Architecture(PWSA)」だ。これは低軌道の多数の衛星を使い、ミサイルの警戒・追跡や、軍事作戦向けの低遅延通信を提供するネットワークである。
実証段階のTranche 0では、2023年以降に27機が打ち上げられた。Tranche 1は、126機のTransport Layer衛星、28機のTracking Layer衛星、4機のミサイル防衛実証衛星で構成される計画で、このうち運用衛星は計154機となる。SDAによると、2026年7月16日の3回目の打ち上げによって、軌道上のTranche 1衛星は63機となった。
大量の衛星を数年単位で更新する構成では、故障して自力で軌道を離脱できなくなる衛星も想定しなければならない。比較的低い軌道では大気抵抗によって最終的に高度が下がるものの、軌道や衛星の状態によっては長期間残り、他の宇宙機との衝突リスクになる。
DIUが目指すのは、政府が専用の除去宇宙機を所有・運用するのではなく、必要なときに民間企業から軌道上物流サービスを購入する形だ。選定企業はまずPDRとリスク低減作業を実施し、SDAとDIUが技術成熟度、ミッション方式、日程、費用を評価して、軌道上実証に進む案を決める。
SDAは2026年1月、Starfish Spaceとも最大5,250万ドルのDaaS契約を締結している。同社の宇宙機「Otter」を2027年に打ち上げ、自力で軌道離脱できないPWSA衛星を少なくとも1機処理する計画で、同じ宇宙機による追加の軌道離脱も契約オプションに含まれる。
Firefly、D-Orbit、Katalystの選定は、この市場に複数の企業と異なる技術方式を参加させる取り組みとなる。軌道上実証に進む案が選ばれ、捕獲に対応していない衛星の安全な除去を実現できれば、軍用衛星だけでなく、政府機関や民間衛星事業者向けの軌道上物流サービスへ発展する可能性がある。
■注目ポイントQ&A
●「捕獲を想定していない衛星の自律捕獲」とは何ですか?なぜ難しいのですか?
専用のドッキングポート、把持機構、誘導装置などを持たず、接近する宇宙機に協力できない衛星を、別の宇宙機が自律的に確保することです。対象が故障して通信や姿勢制御を失っている場合、捕獲機はセンサー情報だけで形状や回転状態を推定し、衛星を損傷させないよう接近・接触する必要があります。
●「2.8日」という数値は、低軌道が間もなく使えなくなるという意味ですか?
いいえ。CRASH Clockの2.8日は、衛星運用者が衝突回避や状況把握の能力を一斉に失ったと仮定した場合に、重大な衝突が起きるまでの時間を推計したものです。2.8日後に自然にケスラー・シンドロームが始まる、あるいは低軌道全体が使用不能になるという予測ではありません。
●DaaS機が衛星を捕獲した後はどうなりますか?
計画する宇宙機の方式によって異なりますが、対象を安定させたうえで軌道を下げ、大気抵抗による再突入を早める方法が想定されています。複数衛星への対応を目的とする宇宙機では、対象を十分に低い軌道へ移した後に分離し、次の衛星へ向かう構成も検討されています。
●PWSAの退役問題と民間衛星の規制にはどのような違いがありますか?
米連邦通信委員会(FCC)の規則は、低軌道を飛行する対象衛星について、ミッション終了後できるだけ速やかに、遅くとも5年以内に軌道から離脱させることを求めています。米軍の衛星には国防総省などの別の基準が適用されますが、PWSAのように多数の衛星を継続的に追加・更新するシステムでも、故障して自力で離脱できない衛星への対策が必要です。
元記事: Pentagon Awards Deorbit-as-a-Service Deals to Catch Satellites Built to Never Be Caught
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
スポンサードリンク
