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NASA宇宙飛行士マイク・フィンク氏が退職、ISS初の医療搬送を経て30年のキャリアに幕

NASA宇宙飛行士のマイク・フィンク氏。STS-134ミッションで3回目の船外活動を開始する前、国際宇宙ステーション(ISS)の「クエスト」エアロック内で撮影された。(NASA.gov)[写真拡大]
ベテランNASA宇宙飛行士のマイク・フィンク氏が2026年8月12日、30年間にわたるNASAでのキャリアを終えて退職した。同氏は4回の宇宙飛行で通算549日を宇宙で過ごし、9回、計48時間37分の船外活動を実施した。宇宙滞在日数はNASA宇宙飛行士の歴代4位に当たる。
最後の宇宙飛行となったSpaceXの「Crew-11」では、ISS滞在中の2026年1月に医療上の出来事を経験した。状態は船内で安定したものの、NASAはISSにない高度な医療画像検査を受けられるよう、Crew-11の4人全員を予定より早く地球へ帰還させた。ISSから医療上の理由でクルーを計画的に帰還させた初の事例となったが、フィンク氏が経験した症状の原因は公表時点でも特定されていない。
フィンク氏はNASAの退職発表で、宇宙船の飛行と開発、ISSの初期段階から軌道上での船長任務まで、優れた仲間と働く機会を得たことに感謝を表明した。今後も探査の仕事に深く関わり、次世代の技術者や探査者、リーダーの育成に貢献したいとしている。
■1月のISS船内で起きた異変と未特定の原因
フィンク氏が医療上の出来事を経験したのは、船外活動を翌日に控えた2026年1月7日の夕方だった。ISS船内でCrew-11の仲間と夕食を取っていた際、突然、約20分間にわたって話すことができなくなったという。
フィンク氏はAP通信の取材に、何の前触れもなく極めて急に起きたと説明した。ほかのクルーは同氏の異変にすぐ気付き、数秒のうちに総出で対応したという。地上のフライトサージャンにも直ちに連絡が入り、状態は短時間で安定した。
NASAはその後、Crew-11の全員を予定より早く帰還させることを決めた。この措置についてNASAは、緊急降下ではなく、地上の高度な医療画像検査を利用するための計画的な医療搬送と説明している。
1月14日午後5時20分(米東部標準時、日本時間15日午前7時20分)、Crew-11を乗せたSpaceXのクルードラゴン「エンデバー」はISSのハーモニーモジュールから離脱した。宇宙船は1月15日午前3時41分(同日午後5時41分)に、米カリフォルニア州サンディエゴ沖の太平洋へ着水した。
NASAは当初、医療上のプライバシーを理由に対象者の氏名や症状を公表していなかった。フィンク氏は2月、自身が医療上の出来事を経験したクルーだったことを明らかにし、ISSでは利用できない高度な医療画像検査を受けるために早期帰還したと説明した。
その後の検査でも原因は特定されていない。フィンク氏はNBC Newsに対し、脳卒中や心臓発作ではなかったことを示すデータが得られたと説明する一方、自身の見方として、宇宙飛行に関連した出来事である可能性が極めて高いと述べている。
■軌道上における医療診断の限界と深宇宙探査への影響
ISSで使用できる主要な医療画像装置は超音波検査装置である。超音波は軟部組織や臓器、血管などの観察に有用だが、地上で神経学的な症状を詳しく調べる際に用いられるMRIやCTと同じ画像を得ることはできない。
フィンク氏が地上へ戻る必要があったのは、原因を特定するための高度な画像検査をISSでは実施できなかったためだ。ただし、本人が公表している情報は、約20分間話せなくなったことと、地上での検査によって脳卒中や心臓発作ではないことが示されたという範囲に限られる。具体的な診断名や原因は明らかにされていない。
宇宙で利用できる画像診断技術には進展もある。2025年に実施された民間有人宇宙飛行ミッション「Fram2」では、市販の携帯型装置を使って軌道上で人体のX線画像を撮影する実験が行われた。研究成果は2026年に査読付き医学誌『Radiology』で発表され、微小重力環境でも診断に利用できる品質のX線画像を取得できる可能性が示された。
もっとも、携帯型X線装置はISSの標準的な医療装備ではなく、MRIやCTの代わりになるものでもない。神経学的な症状を含む幅広い医療事象に対応するには、画像装置だけでなく、乗員による検査の実施、専門家による画像の評価、治療手段まで含めた体制が必要になる。
この課題は、地球低軌道より遠い有人探査で一層重要になる。火星への航行では地球との通信に片道数分から20分以上の遅れが生じる場合があり、地上の医師と遅延なしにやり取りすることはできない。すぐに地球へ帰還することも難しいため、宇宙船内で乗員が自律的に診断と対応を進められる能力が求められる。
■4回のミッションと3種類の宇宙船を経験した30年
フィンク氏は1996年にNASAの第16期宇宙飛行士候補として選抜された。最初の宇宙飛行は2004年のISS第9次長期滞在で、ロシアのソユーズTMA-4に搭乗した。ISSではサイエンスオフィサー兼フライトエンジニアを務め、4回の船外活動を実施した。
2008年にソユーズTMA-13で再びISSへ向かい、第18次長期滞在の船長を務めた。この任務ではISSを将来の6人常駐体制へ移行させるための準備に携わり、さらに2回の船外活動を行った。
3回目の宇宙飛行は、2011年5月に打ち上げられたスペースシャトル「エンデバー」のSTS-134だった。同機にとって最後の飛行で、フィンク氏はミッションスペシャリストとロボットアーム操作者を担当した。宇宙線を観測して暗黒物質や反物質の手掛かりを探す「アルファ磁気分光器(AMS-02)」のISSへの輸送と設置にも参加した。
4回目で最後の宇宙飛行となったCrew-11は、2025年8月1日にクルードラゴン「エンデバー」で打ち上げられた。フィンク氏はCrew-11のパイロットを務め、ISSでは第73次・第74次長期滞在のフライトエンジニアを担当したほか、第74次長期滞在の船長に就任した。
2026年1月12日には、ロシアのセルゲイ・クド=スベルチコフ宇宙飛行士へISSの指揮権を引き継いだ。NASAによると、フィンク氏は通算9回、計48時間37分の船外活動を実施し、そのうち6回でロシアの「オーラン」宇宙服を使用した。
フィンク氏のキャリアは、ISSの建設初期、スペースシャトル時代の終盤、民間企業が運航する宇宙船によるクルー輸送の時代にまたがるものとなった。
■スターライナー開発に携わった経験豊富な宇宙飛行士の退職
フィンク氏はボーイングの有人宇宙船「スターライナー」の開発と訓練にも長く関わった。2019年には、医療上の理由で任務を外れたエリック・ボー氏に代わり、有人飛行試験のクルーに加わった。
その後、技術的問題やスケジュール変更に伴ってクルー編成が見直され、2024年6月の有人飛行試験にはブッチ・ウィルモア氏とスニ・ウィリアムズ氏が搭乗した。この飛行では推進系のヘリウム漏れや複数の姿勢制御スラスターの機能不全が発生した。
NASAは両飛行士をスターライナーで帰還させず、同船を無人で地球へ戻した。ウィルモア氏とウィリアムズ氏はISSに滞在を続け、後にSpaceXのCrew-9で帰還した。
フィンク氏はCrew-11へ再配置されたため、開発と訓練に携わったスターライナーで宇宙へ飛ぶことはなかった。NASAは2025年、スターライナーの飛行ソフトウェアや有人インターフェースの改良を含む同氏の貢献を評価し、Distinguished Service Medalを授与した。
Spaceflight Nowによると、フィンク氏のほか、スターライナーの任務や訓練に関わったウィルモア氏、ウィリアムズ氏、ジョシュ・カサダ氏、ジャネット・エップス氏もNASAを離れている。経験豊富な人材の相次ぐ退職は、長年の試験や訓練で蓄積された知識をどのように引き継ぐかという課題をNASAとボーイングに突き付けている。
NASAが案内している次回の「スターライナー1」は、乗員を乗せないISS向け貨物ミッションとして検討されており、打ち上げ時期は審査中である。その後の有人飛行の時期や乗員は公表されていない。
■フィンク氏とISSの今後
フィンク氏はNASA退職後の具体的な進路を公表していない。一方、退職に際して、NASAで得た経験を次世代の技術者、探査者、リーダーの育成に生かし、人類の月への帰還や火星、その先の探査に貢献したいとの考えを示した。
フィンク氏が初期から建設と運用に携わったISSも、運用の最終段階に近づいている。NASAは2030年ごろまでISSの運用を継続し、その後は米国の軌道離脱用宇宙船を使って制御された形で大気圏へ再突入させる計画を進めている。
Crew-11の早期帰還は、地球低軌道であれば状態を安定させたうえで地上の医療機関へクルーを戻せる一方、ISS内で利用できる検査には限界があることを具体的に示した。月や火星へ向かう将来の有人ミッションでは同じ帰還手段を利用できないため、船内での診断能力、乗員の医療訓練、地上との通信遅延を前提とした運用の整備が必要になる。
●マイク・フィンク宇宙飛行士がISSから早期帰還した理由は何ですか?
2026年1月7日、ISS船内で夕食中に突然、約20分間話すことができなくなる症状が起きたためです。状態は船内で安定しましたが、ISSには必要な高度医療画像検査の設備がなかったため、NASAはCrew-11の4人全員を計画的に早期帰還させました。
●これは緊急事態だったのですか?
NASAは緊急降下ではなく、高度な画像検査を利用するための計画的な医療搬送と説明しています。クルーは通常の手順に沿ってISSを離れ、2026年1月15日に安全に着水しました。
●フィンク氏の症状の原因は判明していますか?
公表時点では原因は特定されていません。フィンク氏によると、地上での検査では脳卒中や心臓発作ではなかったことを示すデータが得られました。同氏は宇宙飛行に関連した可能性が高いとの見方を示していますが、具体的な診断名は公表されていません。
●なぜISS船内で詳しい診断ができなかったのですか?
ISSでは超音波検査装置を利用できますが、MRIやCTなど、地上で詳しい神経学的検査に使われる画像診断装置は搭載されていません。フィンク氏の検査には、ISSでは利用できない高度な医療画像技術が必要でした。
●ボーイングのスターライナー計画にはどのような影響がありますか?
フィンク氏を含め、スターライナーの開発、訓練、飛行に関わった複数の宇宙飛行士がNASAを離れています。このため、長年の試験で蓄積された運用上の知識を組織内で継承することが課題になります。次回のスターライナー1は無人貨物ミッションとして検討されていますが、打ち上げ時期は審査中です。
●マイク・フィンク氏の主な実績は何ですか?
4回の宇宙飛行で通算549日を宇宙で過ごし、NASA宇宙飛行士の歴代4位となりました。ソユーズ、スペースシャトル、クルードラゴンで飛行し、ISS船長も務めました。船外活動は9回、計48時間37分で、このうち6回でロシアのオーラン宇宙服を使用しました。
元記事: Mike Fincke Retires From NASA After ISS Medical Evacuation Left His Final Mission Unexplained
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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