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Samsung、ヒューマノイド新部門「RX」発足 工場試験済みロボットAIを実用化へ
Samsung Electronicsは7月21日、ロボティクス事業を統合するCEO直轄の新組織「Robotics eXperience(RX)Business Promotion Office」を立ち上げた。研究構想の表明にとどまらず、同社はすでに工場で試験したロボットAIを持ち、まず自社工場への導入を進める方針だ。家庭向けヒューマノイドの投入時期は示しておらず、当面は産業用途が中心になる。
■CEO直轄でロボティクスを一本化
Samsung Electronicsは2026年7月21日、分散していたロボティクス関連の取り組みを統合し、DX部門CEOのTM Roh氏直轄で運営する「Robotics eXperience(RX)Business Promotion Office」を正式に立ち上げた。企業組織として明確な形で、ヒューマノイドロボットを次の主要事業に位置付けた格好だ。
今回の発足は研究発表ではない。Samsungは立ち上げ時点で、競合の多くがまだ持たないもの、すなわち工場で試験済みのロボットAIシステムをすでに備えていた。
RX部門の正式な担当範囲は、中長期のロボティクス戦略、基盤技術の開発、事業化の実行、そして韓国国内外での研究体制拡充に及ぶ。Samsungは米国、中国、日本に専用のロボティクス研究拠点を設け、各市場のロボット産業エコシステムを活用する計画も明らかにした。
■工場で試験済みの「Shallow-π」
部門発足に先立ち、Samsung Researchは「Shallow-π」を公表している。これは視覚、言語理解、動作制御を単一モデルで統合するVision-Language-Action(VLA)モデルで、AI制御に必要なステップ数を従来システムの3分の1に圧縮し、1秒当たり17回の判断を行うという。
厳格な現場試験では、サブミリメートル単位の精度が求められる超精密な水用ホースの挿入作業で95%の成功率を達成した。さらに、2本のロボットアームとハンドにまたがる22自由度を、わずか40ミリ秒で協調制御した。同等の精度でこの水準のリアルタイムな巧緻制御を公に示した競合プログラムはない。
言い換えれば、ロボットの「頭脳」はすでに動いている。Samsungが今構築しているのは、それを大規模に実運用するための組織体制と生産インフラである。
■外部人材と大学研究者を投入
RX部門の戦略責任者には、社内昇格ではなく、Hyundai Motor Groupでロボティクス戦略を率いたLee Dongkun副社長を外部から招いた。Lee氏は2026年5月にSamsungへ加わった。Hyundai Motor GroupはBoston Dynamicsを傘下に持つ。
Lee氏は、Boston Dynamicsを研究成果の展示にとどまる企業から商業事業へ転換しようとしたHyundaiの取り組みの中で、電動ヒューマノイド「Atlas」や四足歩行ロボット「Spot」の開発を統括した経験を持つ。この人事は、Samsungがヒューマノイドに関心を示しているだけでなく、その開発と大規模展開を経験した人材を獲得するほど本腰を入れていることを示している。
Samsungはこれに加え、特定の高コスト課題に狙いを定めた学術人材も配置する。自律ロボットの誘導・制御が専門のソウル大学Hyun-Jin Kim教授と、ロボットハンドおよびマニピュレーション技術を研究するAjou UniversityのEui-Kyum Kim教授がRX部門に加わる。
特にEui-Kyum Kim教授の採用は、その狙いが明確だ。ロボットが人間の手のように多様な物体をつかみ、位置を調整し、組み立てる巧緻なマニピュレーション能力は、ヒューマノイドの部品コストの最大31%を占めるとされ、独立系のロボット研究者からも商用化における最大の障壁として広く挙げられている。Samsungはこの問題に直接取り組むため、2026年初めに専用の「Hand Lab」を設けている。GSMArenaが確認した報道によると、今回の採用により、Samsungはロボットハンド設計における韓国有数の研究者を迎えたことになる。
■競争優位の中核は「Robot Data Factory」
Samsungの計画で戦略的に最も重要なのは、組織図や投資規模そのものではなく、データを生み出す仕組みだ。同社はソウル・牛眠洞キャンパスに主要な研究開発拠点を設ける一方、慶尚北道・亀尾の施設に「Robot Data Factory」を構築する。
その重要性を理解するには、現代のロボットAIがどのように訓練されるかを見る必要がある。ヒューマノイド分野で主流のVLAモデルは、知覚、言語理解、物理的な動作制御を単一のエンドツーエンドモデルに統合する仕組みだ。人の作業動画、シミュレーション上のロボット軌道、そして実環境でロボットが実際に動作したデータなど、大量のデモンストレーションデータから学習する。
このうち最も希少で価値が高いのが、現実の物理環境における実ロボットの実行データだ。シミュレーションだけで訓練したロボットは、実際の工場や家庭にあるノイズやばらつき、物理的な予測不能性に直面すると安定して対応できない。この隔たりは研究者の間で「sim-to-real問題」と呼ばれている。
亀尾の施設は、自社の通常の製造工程そのものから、この高品質な訓練データを副産物として生み出す設計になる。ロボットは実際の生産ラインで資材の搬送、組み立て、生産作業を担い、その実行データがVLAモデルの学習へ継続的に戻され、ロボットの精度と汎用性を高めていく。
Samsungは、資材の受け入れから出荷までの全工程にデジタルツインを利用したシミュレーションを導入し、ヒューマノイド製造ロボットを段階的に展開する計画だ。亀尾の施設は、現実世界におけるロボットの動作経験を蓄積する中核拠点となる。
これはSamsungの製造基盤が、単なる量産設備ではなく、独自のAI訓練パイプラインになることを意味する。多くの競合は、シミュレーションデータ、人が記録した動画、小規模なロボット遠隔操作データセットを使ってVLAモデルを訓練している。一方、Samsungは通常の製造活動を行う過程で、産業規模の実ロボット実行データを生み出すよう生産ラインを設計している。ロボット向けの「データの堀」とロボットのハードウェア基盤が一体化している構図だ。
亀尾には技術的役割を超えた象徴性もある。同市はかつてSamsungの携帯電話「Anycall」時代を支えた拠点であり、同社はここをロボティクス事業の未来を生み出す場所にしようとしている。亀尾市もこれに呼応し、Robot Task Forceを設置するとともに、地域にはすでに50社超のロボティクス企業が集積していると説明している。
■まず自社工場、2030年に「AI自律工場」へ
Samsungの展開計画は、ヒューマノイドを先に消費者向け製品として売り出そうとする競合とは異なる順序を取る。まず産業用ロボットに集中し、自社の世界各地の製造施設を実証の場として先進的なヒューマノイドを導入した後、他のメーカー向けに提供する。そのB2B産業市場を確立してから汎用の消費者向けロボットへ拡大する計画だが、消費者向けは現時点の目標ではなく、明確に後段へ位置付けられている。
第1段階の明確な目標として、Samsungは2030年までに世界中の全製造拠点を「AI autonomous factories(AI自律工場)」に転換すると掲げた。大手エレクトロニクス企業が公表した製造自動化目標の中でも、特に野心的な部類に入る。1980年代に自動車製造を再編した自動化の波を、消費者向け電子機器、半導体、ディスプレイを含む広範な生産領域に適用しようとするものだ。
この手法の経済性も意図的である。Samsungが世界中の数百の生産ラインにヒューマノイドを配備すれば、単一製品を手掛けるスタートアップでは到達できない速度で累積生産量を増やせる。累積生産量が倍になるごとに単位コストが15~20%下がるという産業工学上の「Wrightの法則」に照らせば、同社の工場網そのものが構造的なコスト低減メカニズムになる。
さらにSamsungは、投資と買収によって計画を加速させる方針も明示している。業界筋はこの表現を、Rainbow Roboticsへの出資に続く追加の案件を示唆するものと受け止めている。
■Rainbow RoboticsとNVIDIA基盤を活用
RX部門は、ゼロから始めるのではなく、すでに機能するハードウェア基盤を引き継ぐ。Samsungは、韓国初の二足歩行ロボット「Hubo」を開発した韓国企業Rainbow Roboticsへの出資比率を2024年末までに約35%へ引き上げ、筆頭株主となるとともに、同社を連結子会社として取り込んだ。
Rainbow Roboticsのヒューマノイドプラットフォーム「RB-Y1」は、Samsungの公式発表が説明しているように、一から設計するのではなく、既存の機体を反復改良していくための実用的な土台をRX部門に提供する。Samsungが明示した戦略は、自社のAI・ソフトウェア技術とRainbow Roboticsの機械・ロボティクス技術を組み合わせ、知能化ヒューマノイドの開発を加速することにある。
インフラ投資もRX発足とは別に進んでいる。SamsungはAI統合に向けて、自社の製造ネットワーク全体に5万基超のNVIDIA製GPUを配備した。NVIDIAとの協業には、同社のシミュレーション基盤「Omniverse」上で構築するデジタルツイン環境も含まれる。これらのGPUは製造のためだけでなく、SamsungのロボットAIモデルを訓練し、実行するための計算基盤でもある。
■競争環境と残る課題
Samsungがロボティクス事業を正式化した日、同社株はソウル市場で6.76%上昇し、約4%上昇したKOSPI指数を上回った。投資家はこの組織再編を、資本力、サプライチェーン、製造規模を持つSamsungが、単なる関心表明ではなく本格的に事業へ取り組むシグナルと受け止めた。
もっとも、この市場は黎明期である一方、競争は激しい。世界では300社超のヒューマノイドロボット企業が活動しており、とりわけ中国メーカーが急速に台頭している。中国の有力な競合の1社であるUnitreeは、ヒューマノイドを1台約1万6000ドル(約262万円、1ドル=164円換算)で出荷している。
Hyundai傘下のBoston Dynamicsは電動Atlasを開発中で、2026年の全生産分をHyundaiとGoogle DeepMind向けに割り当てている。TeslaのOptimus計画も、Samsungが採用するのと同様の論理で垂直統合を進めており、Elon Musk氏は、ヒューマノイド向けのAI5チップがSamsungの米テキサス州Taylor工場で製造されると認めている。Figure AIの「Figure 03」は製造現場に導入されており、2026年半ばにはBotQ施設で1時間当たり1台を超える生産速度に達した。
独立系アナリストや研究者は一貫して、巧緻なマニピュレーション、長時間駆動できるバッテリー、そしてsim-to-real問題を、ヒューマノイドの大規模商用化に向けた直近の3大障壁に挙げてきた。商用配備済みシステムの平均稼働時間は2~4時間とされる。
Samsungによる韓国有数のロボットハンド研究者の採用と、亀尾のRobot Data Factory構想は、この3つのうち第1と第3の課題への直接的な対応だ。バッテリー駆動時間は、業界全体でなお未解決の工学上の課題として残っている。
世界のヒューマノイドロボット市場規模は現在20億~50億ドル(約3280億~8200億円、1ドル=164円換算)とされる。アナリスト予測には、2030年に約150億ドル(約2兆4600億円)へ達するとの見方から、2033年に400億ドル超(約6兆5600億円)へ拡大するとの見方まで幅がある。Samsungほどの規模の企業にとっても、重要な新規収益の柱になり得る市場規模だ。
組織としてのコミットメントを商用製品へ転換できるかが、いまRX部門に課された中心的な問いである。Samsungは2026年末までに、ヒューマノイド分野で具体的な進展を示せると見込んでいる。
ロボットはまだ大規模出荷には至っていない。だが、それを作るための組織は整い、そこで動くAIはすでに最初の工場試験を通過している。
■労働への影響はなお不透明
2030年までに「AI autonomous factories」を実現するというSamsungの構想について、同社のプレスリリースが触れていない論点の1つが雇用への影響だ。世界の製造拠点をAIによる自律運用へ転換することは、それらの施設で必要となる人間の生産要員を構造的に減らす可能性を意味する。Samsungは労働力への影響に関する推計を公表しておらず、独立系アナリストも施設別の予測をまだ示していない。
分野全体について広く示されている見通しでは、2026年時点のヒューマノイドは人間の労働者を全面的に置き換えるものではなく、補完する性格が強い。反復的で身体的負荷が高い作業や危険な作業に適している一方、組み立て作業に伴うあらゆる複雑さに対応できるわけではない。
2030年という期限は野心的であり、多くのロボティクスアナリストは「完全自律」を現時点では目標を示す表現とみている。より現実的な近未来像は、人間による相応の監督を残し、特定の作業をヒューマノイドが人間と並んで担う協働体制である。
■注目ポイントQ&A
●RX部門とは何ですか
RXはRobotics eXperienceの略です。Samsungがそれまで複数の部門に分散させていたロボティクス研究開発を1つにまとめ、DX部門CEOのTM Roh氏へ直接報告する新設の事業推進組織です。2025年に設置されたFuture Robotics Officeを含む従来体制との違いは、CEO直轄の報告ラインと、戦略、基盤技術開発、事業化計画を単一組織に集約した点にあります。従来の取り組みには、統一された指揮系統や明確な事業化ロードマップがありませんでした。
●Robot Data Factoryとは何ですか
通常の生産活動を行いながら、ロボットAIの訓練データも副産物として生み出すよう設計された製造施設です。現代のヒューマノイドを制御するVLAモデルは、実際のロボットが現実の物理環境で作業した経験データから学習します。この種のデータは、精密なマニピュレーションAIの訓練に使うデータの中でも特に希少で価値が高く、シミュレーションだけで訓練したロボットが直面するsim-to-real問題の縮小に役立ちます。Samsungは亀尾の施設で、実際の生産ライン上でロボットが組み立てや資材搬送を行った実行データを収集し、それをVLAモデルの学習に戻して精度と汎用性の継続的な改善に生かす計画です。ソフトウェアを中心とする競合には、このような産業規模の独自訓練データを得にくいという違いがあります。
●TeslaやBoston Dynamicsとの違いは何ですか
3社はいずれも産業用途を先行させ、VLA系AIを重視する点で共通しています。主な違いはハードウェア構成とデータの取得方法です。Teslaはチップから機体までの一貫した垂直統合を進め、自社の車両群から得られる動画データを訓練に利用しています。Hyundai傘下のBoston Dynamicsは、2026年に生産するAtlasの全数をHyundaiとGoogle DeepMind向けに割り当てる、対象を絞った高付加価値パートナー戦略を取っています。
Samsungの特徴は、自社のハードウェア供給網にあります。ヒューマノイドに使われる高帯域幅メモリ、イメージセンサー、ディスプレイ部材をすでに自社で製造しており、ロボティクス専業企業には再現しにくいコスト面と供給面の優位性を得られる可能性があります。自社工場から実ロボットの実行データを継続的に得られる点も特徴です。また、HyundaiでBoston Dynamicsの戦略を率った人物を採用したことから、Samsungは両社の取り組みを競合関係というより並行するものと捉えている可能性があります。
●家庭向けヒューマノイドはいつ登場しますか
早期の投入は見込まれていません。Samsungが示した展開順序は、まず自社工場で産業用ロボットを実証し、次に他メーカー向けのB2Bロボットを提供し、最後に汎用の消費者向けロボットへ進むというものです。2030年のAI自律工場目標は、このロードマップの第1段階に当たります。
消費者向けヒューマノイドは長期的な目標として示されていますが、投入時期は公表されていません。ヒューマノイドロボット分野では、消費者向けの本格的な展開は早くても2030年代初めになると広く予測されています。その実現には、どの企業もまだ完全には解決していない巧緻なマニピュレーションとバッテリー駆動時間の課題を克服する必要があります。
元記事: Samsung Launches Humanoid Robot Division With Robot-Brain AI Already Tested in Factories
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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