関連記事
「金利ある世界」の転換点 メガバンクが主導する日本経済「資本純化」の正体

(c) 123rf[写真拡大]
日本経済は今、30年来の「デフレの呪縛」を完全に断ち切り、新たな地殻変動の渦中にある。日銀による段階的な利上げは、単なる金融政策の正常化ではない。それは、日本における「資本の価値」を再定義する国家規模の構造変革である。
【こちらも】高市政権「成長戦略17分野」が呼び込む防衛・建設セクターの構造的再編
その最前線で、長らく「割安株の代名詞」と甘んじてきたメガバンクが、投資家に対して「次のパラダイム」を提示し始めた。
■バリュエーションの「断層」を越えて
日本の銀行はかつて、金利が消滅した国内市場において、収益性の限界に直面していた。しかし政策金利が0.75%に達し、年内1.0%への到達が現実味を帯びるなか、市場の評価(バリュエーション)は劇的な変容を遂げている。
PBR(純資産倍率)1倍割れという「異常事態」を脱し、1.2倍から1.5倍へとリレーティング(再評価)を狙うその姿は、一時的な利益増益に浮足立つものではない。資本効率の追求と、リスクテイクの質的転換を伴った「ユニバーサル・バンク」への昇華である。
■国策としての「金利機能回復」と地政学的恩恵
「金利ある世界」への移行は、岸田・石破政権と連動した「資産運用立国」の核心的メカニズムである。植田日銀総裁が指摘するように、金利機能の回復は企業の資本配分を最適化させ、「ゾンビ企業」(設立10年以上で、ICRが3年以上にわたって1未満)の退場と成長産業への資金流入を促す。
地政学的な視点に立てば、米国の利下げサイクルと日本の利上げが交差する「収斂」が、日本の銀行に強力な追い風となっている。長らく外貨調達コストに苦しんできた海外事業は、日米金利差の縮小によってヘッジコストが低減し、実質的な採算性が劇的に向上している。
これは、グローバルな資金循環を自社内で完結させる「メガプラットフォーム」としての優位性を、再び強化するものである。
■三者三様の「資本純化」とPBR改善の力学
メガバンク3グループは、利ざや拡大という「共通の果実」を得つつも、独自の資本戦略によってその差を明確にしている。
●三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306):グローバル資本の司令塔
国内最大の預金基盤を「利ざや改善」の源泉としつつ、米モルガン・スタンレーとの強固な同盟を軸に投資銀行業務を深化させている。特筆すべきは、ROE9.0%以上を射程に入れた資本管理の徹底だ。政策保有株式の売却加速は、単なる帳簿上の処理ではなく、資本コストを意識した経営への「覚悟」に他ならない。
●三井住友フィナンシャルグループ(8316):リテールDXの先行者
個人向け金融サービス「Olive」を起点としたデジタル経済圏の構築が、非金利収益の質を変えた。決済や運用手数料といった「ストック型収益」を積み上げることで、景気循環に耐性を持つ高収益構造を確立。機動的な増配とコストコントロールの両輪が、PBR1.5倍超への試金石となっている。
●みずほフィナンシャルグループ(8411):法人コンサルティングへの回帰
大企業との接点を武器に、脱炭素や事業承継といった高度コンサルティングで「非金利収益」を最大化。ITシステムへの投資フェーズを終え、創出したキャッシュを株主還元へ一気にシフトさせている。PBRの改善率においてトップを走る背景には、資本最適化への最もドラスティックな転換がある。
■選別の時代の「信用コスト」
バラ色のシナリオの裏には、冷徹なリスクも潜んでいる。金利上昇は、過剰債務を抱えた中小企業や、価格転嫁能力のない業種のデフォルト(債務不履行)を誘発する。
2026年以降、信用コストはコロナ禍以前の水準を突破する可能性がある。また金利上昇局面における保有債券の含み損、いわゆる「逆ザヤ」リスクの管理能力が、経営陣の真価を問う分水嶺となる。
ネットでの利益成長を維持できるか、あるいは不良債権処理に追われるか。メガバンクといえども、その「舵取りの精緻さ」によって、投資家による峻別が始まるだろう。
■日本経済の「エンジン」としての再定義
「金利上昇=悪」という思考停止の時代は終わった。適正な金利は、怠慢な経営を許さず、資本をより効率的な場所へと導く「光」となる。
メガバンクが持ち合い株式を解消し、成長投資へと舵を切ることは、日本独自の閉鎖的資本構造の解体そのものである。5年から10年の長期スパンで見れば、メガバンクは受動的な資金供給者から、日本経済の生産性を引き上げる「構造変革の執行者」へと変貌を遂げているはずだ。
この「資本のパラダイムシフト」に乗れるか否か―。今、投資家にはその本質を見抜く眼力が求められている。
スポンサードリンク
