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頭の中はまるで猫の袋詰め? 「a bag of cats」が描く混沌
マーベル映画『アベンジャーズ』に、印象的なセリフがある。ハルクに変身する科学者ブルース・バナーが、悪役のロキを評してこう言ったのだ。
【こちらも】「dog my cats」とは? 奇妙な表現の背景にある19世紀アメリカ英語の事情
「That guy’s brain is a bag full of cats.」
(あいつの脳みそは、まるで猫の袋詰めだ)
「a bag full of cats」を直訳すると、「猫でいっぱいの袋」。想像するだけで騒々しいが、これが人間の精神状態や性格を表すとき、何を意味するのだろうか。今回は、辞書的な定義を超えて、ネイティブが感覚的に生み出した英語表現を掘り下げてみたい。
■アイルランドの俗語から狂気の象徴へ
「a bag of cats」はおもにアイルランドで使用されるスラングで、「不機嫌な人」「意地の悪い人(bad-tempered person)」を指す。袋に詰められた猫が爪を立てて暴れるように、周囲に当たり散らす扱いにくい人物を指す表現だ。
しかし、冒頭の『アベンジャーズ』の例では、単なる不機嫌さにとどまらない。そこには論理が通じない混沌や予測不能な狂気というニュアンスが含まれている。複数の猫が閉鎖空間で互いにひっかき合い、鳴き叫ぶ様子を想像すれば、ロキの脳内がいかに危険な状態であるかが伝わってくるだろう。
■袋の中の猫はなぜ暴れるのか
英語のイディオムにおいて、「猫」と「袋」の関係は根深い。
本コラムでも以前紹介したが、「Let the cat out of the bag(秘密を漏らす)」や「Pig in a poke(袋の中の豚=中身を確かめずに買う)」という表現がある。これらは中世ヨーロッパの市場で、高価な子豚と偽って、価値の低い猫を袋に入れて売りつけた詐欺行為に由来している。
このイディオムでは、猫は「隠されるべき嘘」の象徴だった。袋が開けられ、猫が飛び出すことは「嘘がバレる(=秘密が露見する)」ことを意味した。
それに対して、今回の「a bag of cats」は、袋が開けられる前の状態に焦点を当てている。無理やり詰め込まれた猫たちが、袋の中で暴れ回っている状態だ。隠しきれないほどのエネルギーで袋を食い破ろうとするような、制御不能なカオスがそこにある。
■褒め言葉ではないので要注意
猫好きにとっては「full of cats(猫がいっぱい)」などと言われると、天国のように聞こえるかもしれないが、英語圏でこの表現を使われて喜んではいけない。もしあなたの職場を指して、誰かが「It's like a bag of cats in here.」 と言ったなら、それは「皆が喧嘩腰で収拾がつかない修羅場」であることを意味している。
教科書には載っていない表現だが、「a bag of cats」という言葉の響きには、理屈を超えた説得力がある。こうした視覚的なイメージを伴う比喩表現を知ると、英語がもっと面白くなるだろう。(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る)
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