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「どうしたの、急に黙り込んで?」と言うとき、英語では「Cat got your tongue?」という少し不思議な表現が使われる。直訳すれば「猫に舌を取られたのか?」というこの言い回し、いったいどこから来たのだろうか。今回は、その語源や変遷をひもといていく。
【こちらも】「猫の鳴き声」「猫のパジャマ」とは? 猫にまつわる英語イディオム (2)
■Cat Got Your Tongue?
「Cat got your tongue?」とは、質問か何かに対して黙り込んだ相手に向かって、「どうした、言葉を失ったのか?」とからかうときなどに使うイディオムである。
返答を期待される場面での沈黙に対し、軽い皮肉や冗談の意味合いで用いられることが多い。子供に向けて使われることが多く、やや古風な響きはあるが、今なお耳にすることのある言い回しである。
一見すると文法的に不完全な文に思えるかもしれないが、これは本来 “Has the cat got your tongue?”(猫に舌でも取られたのか?)という疑問文の省略形である。口語ではしばしば助動詞や冠詞が省略されることがあり、この表現もその一例だ。
■語源は不明
この表現の由来には多くの説があるが、いずれも確たる証拠はない。最も広く流布しているのは、古代エジプトで罪人の舌を猫に与えたというもの、あるいは、王や権力者が不敬な者の舌を切り取り、飼い猫に食べさせたという逸話である。
だがこれらはいずれも、歴史的根拠を欠いており、現在では信憑性がないとされている。
またイギリス海軍の懲罰具であった「cat o' nine tails(九尾の猫)」による鞭打ち刑を恐れて、黙り込む様子から生まれたという説も存在するが、これも直接的な記録はない。いずれの説も、表現のイメージが強烈であるがゆえに後づけされた、後世の作話ではないだろうか。
実際にこの表現が記録に登場するのは、19世紀後半だ。アメリカ中西部の新聞『The Racine Democrat』(1859年)が掲載した一文が最初期の例である。読者向けの注釈もなく使用されていることから、当時すでに一定の認知度があったと推測される。その後、さまざまな雑誌や小説にも登場し、20世紀初頭には日常的な口語表現として普及していたようだ。
興味深いのは、この表現は1980年代以降、特に21世紀に入ってから急速に使用頻度を伸ばしていることだ(参照:Google Books Ngram Viewer)。かつてはやや古びた表現だったが、現在ではユーモラスなイディオムとしてふたたび注目されている。
例文
・Why are you so quiet all of a sudden? Cat got your tongue?
(なんで急に黙り込む?猫に舌を取られたのか?)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る)
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