古いディーゼルエンジン用語から

2023年8月30日 15:33

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Photo:2012年時点で3代目アテンザに搭載していたクリーンディーゼルエンジン(画像提供: マツダ)

Photo:2012年時点で3代目アテンザに搭載していたクリーンディーゼルエンジン(画像提供: マツダ)[写真拡大]

  • Photo: RENESIS水素ロータリーエンジン(画像提供: マツダ)

 最近のディーゼルエンジン車は、通常のガソリンエンジン車と同じ操作で始動し、エンジン停止も出来るが、昔のディーゼル車はいろいろと手順が違っていた。

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●内燃機関の始動と停止

 ガソリン車は、気化器か燃料噴射装置でシリンダーにガソリンを吸入すると、点火プラグで着火することでエンジンがかかるし、エンジンキーを切ることで、着火を止めて、エンジン停止させられる。

 しかしディーゼルエンジン車は、圧縮されて高温となった燃焼室に、軽油を噴射して着火させることでエンジンを始動し、圧縮工程で高温を作り出すのを止めることで、エンジンを停止させる。

●グロープラグ

 ディーゼルエンジンの構造解説に関して、最近の自動車学校では、どんな風に講習しているのかは不明だ。だが昔は、「自転車の空気入れポンプ」を動かすと、筒の部分が熱くなることを例示して、「空気を圧縮すると高温になる」ので、それに燃料を噴射して着火するとの説明をしていた。

 当然、寒冷期間には、空気が冷えている分だけ、圧縮することで上昇するべき温度が少々上がり難い。そこで昔は、手動で燃焼室部分を「グロープラグ」(英: Glow plug)で温めてやって、噴射した軽油への着火がし易い様に温度を上げた。

 詳しく説明すると、予燃焼室式や渦流室式などの副室式ディーゼルエンジンは、燃焼室内の噴射された燃料が直接触れる位置に装備した。燃焼室の表面積が小さく、壁面への熱損失の少ない直噴式ディーゼルエンジンではグロープラグは使わず、インテークマニホールド直前の吸気通路に、吸気を直接暖めるインテークヒーターを設置している。

 昔のガソリンエンジンの気化器(キャブレター)は、寒冷期はチョークを引っ張って始動し、アイドリングが安定して来ると押し戻していたが、昨今の電子燃料噴射装置(インジェクション)になってその作業が不要になったのと同様、ディーゼル車も特段の作業は不要となった。

●デコンプ

 エンジンを停止する際には、「デコンプ」で、空気の圧縮を止めることで停止させた。

 デコンプとはデ・コンプレッション(英語ではcompression release mechanism)の意味で、圧縮圧力を逃がすこと。

 つまり、圧縮熱を発生させ点火している訳だから、この圧縮を無くして着火を止めることでストップさせた。

 最近の技術の進歩で、ディーゼルエンジン車は、普通のガソリンエンジンと同じ手順で、エンジンキーか、START/STOPボタンで不自由なく始動・停止が利用出来ている。

 昔のディーゼルエンジン車は騒音が激しく、ディーゼルエンジン車で通勤している人の隣家から、「昨夜はご主人、午前様でしたね」とか、帰宅時間までまる聞こえで、多少の嫌味も含んで指摘されたりもした。

 しかし最近のクリーンディーゼル車は、多少エンジン音が大きい程度で、車種によってはガソリンエンジン車の方がうるさいと言える程静かになった。

 当然、深夜の帰宅も、近隣に迷惑をかける心配も無くなっている。

●残念な思い

 日本車が「ハイブリッド車」を推進していた頃、欧州ではドイツを代表格に「クリーンディーゼル車」で対抗しようとしていた。

 日本市場では、ディーゼルエンジン車には多少偏見があったが、ヨーロッパ市場ではディーゼルエンジン車に対する評価は却って良い位であった。

 そんな環境下で、VWが2015年、アメリカの排出ガス数値をクリア出来ない為に、排ガス偽装をしたことが露見した。当時のアメリカのクリーンディーゼル車排出規制値をクリア出来たのは、マツダが唯一だった。
 
 しかしマツダの技術陣は、日本国内では既に定評のあるエンジンであるにも拘わらず、アメリカ市場での運転モードや環境を勘案して、規制数値はクリア出来ても、自分たちの車トータルの評価基準で満足出来ず、今少しの熟成を図ることとして、アメリカ市場への投入を決断しなかった。

 厚顔なVWは、規制値もクリア出来ていないのに、アメリカ市場で唯一の、偽「クリーンディーゼル車」を謳って一定の市場を獲得したが、排ガス偽装の事実が発覚した。

 その結果、ディーゼルエンジン車全体に対する忌避反応が起こり、内燃機関搭載車の将来に大きな禍根を残した。

 普通にクリーンディーゼルエンジンが普及していれば、未完成な技術のEV車に出番は無かった筈だ。VWがやらかした偽装が如何に世界的に迷惑を及ぼしたのかと思うと、残念でならない。

●クリーンディーゼルエンジンは不滅だ

 今後主流となるであろう「燃料電池車」、従来のガソリン車やロータリー車の燃料を水素に置き換えた「水素エンジン車」と、従来技術である「クリーンディーゼルエンジン車」、「ハイブリッド車」が将来とも自動車用動力源を担うことだろう。

 そして、開発途上国も勘案した上で、世界の自動車環境を考えれば、クリーンディーゼルエンジン技術の比重は一層高まることだろう。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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