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シャドーインサイダー取引 規制当局との”いたちごっこ”に新局面か
インサイダー取引は、違法行為として厳しく処罰される。社会に知られていない内部情報を元にした取引が可能なら、特定の人だけが簡単に多額の利益を上げられる。健全なマーケットを維持するための牽制装置として、インサイダー取引規制は絶対に必要だ。
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だが、会社の重大な秘密を知り得る立場にいること自体が非常に稀有なことで、そもそもそんな情報に接することが至難だから、一般の人はそんな心配をする必要がない。職業として企業のホットな情報に接する可能性がある証券会社や銀行の職員も、近年はコンプライアンスの「キホンのキ」として厳しく教育され、周囲の目もあるから心理的な歯止めは大きい。
一か八かの大勝負に出ると、(目に付くから)証券取引等監視委員会の知るところとなって事情を聞かれる羽目に陥る。
今やインサイダー取引は絶滅危惧種かと思っていたら、2月21日の日本経済新聞に”新種のインサイダー「シャドー取引」、米ETFで横行”と題する記事が掲載されていた。
シドニー工科大学というオーストラリア国内で1位(世界大学ランクでは133位、ちなみに慶應義塾大学は197位、早稲田大学は205位)にランクされている、評価の高い大学の研究者が、2009年から2021年にかけて行われたM&Aを分析。その結果、対象企業の3~6%に、通常よりも50%以上売買が膨らむ「異常取引」が認められ、対象期間中の異常取引の総額が27億ドル(約3500億円)に上ったことを突き止めた。
直接当該企業の株式を売買するのではなく、対象企業や同業他社も組み入れられた業種別ETFなどの取引では、インサイダー取引と判定されにくいことを計算しているようだ。表面化しにくいので、シャドーインサイダー取引と呼称されている。
米国の証券取引法を守備範囲とする弁護士の間では、2022年末に米証券取引委員会(SEC)が、インサイダー取引の規制を強化するために行った証券取引法の一部改正は、新種のインサイダー取引を取り締まる目的を持つと解釈されているという。
SECが規制強化を進めた背景には、16年8月に米大手製薬会社が同業の別会社(A)と買収に合意したことを知ったA社の社員(B)が、競合する別会社(C)の株式を売買して不当な利益を上げた、という事例が関係しているという。当該社員(B)はSECによって連邦地裁に提訴されて、「M&Aとは無関係のC社の株取引だからインサイダーではない」主張したが、却下されて訴訟が継続している。
直接的なインサイダー取引が下火になったら、シャドーインサイダー取引で規制逃れを目論む流れが生まれた。表面化しにくい新たな形態の犯罪が対岸の火事なのか、既に身近で延焼中なのか、日本の規制当局にも大胆な発想の転換が必要なようだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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