日産が仏ルノーとの持株調整問題に合意して生じた、「明」と懸念 (下)

2023年2月3日 11:25

印刷

(c) 123rf

(c) 123rf[写真拡大]

 日産の時価総額は現在概ね2兆円弱だから、ルノーが現状の単価で28%(43ー15=28)の株式を処分すると仮定した場合、5000億円強を手にすることになるが、この思惑がマーケットで実現する可能性はほとんどない。

【前回は】日産が仏ルノーとの持株調整問題に合意して生じた、「明」と懸念 (上)

 株式取引は売りと買いの微妙なバランスで形成されているから、一気に28%もの売りが出た場合には、そのバランスが崩れて日産の株価は暴落する。ルノーから日産の株式を預かった信託会社は、株価の動向を睨みながら、徐々にマーケットで売りに出さざるを得ない。だが価格の変動を抑えながら短期間で大量の株式を売却することは不可能だから、投資家の保護を名目に日産が自社株買いをする他ない。

 つまり、日産とルノーが保有する株式を対等にするということは、日産が大部分の資金を負担することと実質的には同義なのだ。

 日産とルノーの声明では、株について「ルノーが日産株の出資を15%にすることと、ルノーが28%分の日産株を仏信託会社に移したのちに売却する」としか触れられていない。決着までのシナリオは別途詳細に決められていて、日産の負担も相当なものになっている筈だ。

 ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)は22年10月17日の日経新聞の取材に、「日産との提携関係を対等にする必要がある」と答えた。対等な関係を日産が強く望んでいると承知した上での発言で、ルノーの関係者も10月中の合意を期待する口振りだった。

 当時ルノーが11月8日に予定していた投資家向けの説明会は、日産の粘りで先延ばしする羽目に陥った。そこから数えても、軽く2カ月を超える交渉が続いて来たことになるから、ルノーにとっては想定外のことだったろう。

 22年に日産が世界で販売した新車台数は322万台で、前年比20%の落ち込みだ。日産・ルノーと三菱自動車の日仏3社連合は615万台(前年比▲20%)だったので、▲3%に抑えて685万台を売り上げた韓国・現代自動車グループに抜かれて、世界第3位の地位から陥落した。

 そんな中で多額の資金を必要とする自社株買いを迫られ、長期間の交渉で様々な合意に縛られるだろう日産から、歓呼の声が聞こえないことは、日産が抱く懸念の証だろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事