NTTデータの「統合バンキングクラウド」構想 地銀に与える今後の影響は?

2023年1月6日 17:00

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「統合バンキングクラウド」のイメージ(画像: NTTデータの発表資料より)

「統合バンキングクラウド」のイメージ(画像: NTTデータの発表資料より)[写真拡大]

 NTTデータが、4つに大きく分かれる勘定系システム陣営を統合する「統合バンキングクラウド」構想の実現を進めている。これは地銀のビジネス環境に大きく影響を与えるものである。

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 勘定系システムとは、銀行のシステムの本丸で「基幹システム」とも呼ばれる。預貯金、為替、ATM等を管理し、銀行にとって最も重要なシステムである。みずほ銀行においてこの勘定系システムでトラブルが発生し大混乱を招いたことからも、その影響度がうかがい知れる。

 勘定系システムはその重要性とシステム規模から、メインフレームと呼ばれる高性能コンピュータを使用しているケースがほとんどであるが、その構築や維持にかかる費用も非常に高額である。

 地銀は、単独でその費用を負担することは難しいため、複数の銀行で1つのシステムを共同利用している。例えば、2004年に運用を開始した共同利用システムである「地銀共同センター」は、京都銀行や山陰合同銀行等13行が利用している。同じく「MEJAR」は横浜銀行等5行が利用しており、新たに広島銀行が2030年より加わる予定だ。

 地銀の勘定系システムは、NTTデータが展開する「地銀共同センター」「MEJAR」「STELLA CUBE」「BeSTA cloud」の4陣営に加え、日本IBMが展開する「Chance」「じゅうだん会」「TSUBASA」や、日立が展開する「NEXTBASE」等がある。

 この内、NTTデータが展開する勘定系システムが約4割のシェアを占め、冒頭の「統合バンキングクラウド」構想は、4つの陣営を統合してクラウド化するものである。

 地銀という限られたパイを主要ITベンダーが奪い合う戦いであったが、今回のNTTデータの構想により戦いの方向性が変わる可能性がある。具体的には、NTTデータと日本IBMの2強に集約される動きとなるか、他のITベンダーが共同化とは異なる一手を打ち出すのか、という動きが予想される。

 地銀が勘定系システムに求めるものは、何より安定性と安全性である。一方、競争領域ではないため、共同利用やクラウド化によるコスト削減は苦境に立つ地銀にとって重要な戦略である。

 地銀を取り巻く環境は厳しい。日銀が長期金利の変動幅を拡大したことで、銀行にとっては貸出金利をあげることで預貸利ざやが改善する見込みだが、それが地銀の収支全体の回復につながるわけではない。

 またフィンテック企業の事業領域拡大や、EC事業者等の金融業界以外の決済事業参入といった外的脅威により、「金融機能は必要だが、銀行は必要なくなる」とまで言われている。

 そのような環境下で、今後の地銀の基幹システムに求められるのは、1つは顧客管理である。顧客管理というキーワード自体は以前より存在する。「貯蓄から投資へ」の流れの中で、銀行窓口やスマホを接点としてライフタイムで顧客を管理し、融資以外のビジネスで収益を獲得することができる地銀が生き残っていくことになるだろう。

 もう1つは、フィンテック企業等とのスピーディーな連携である。APIのような技術を用いて、柔軟かつ迅速に外部サービスと連携する仕組みを構築していくことが、今後の課題となる。

 地銀という限られたパイの中で、NTTデータの「統合バンキングクラウド」構想に続いてITベンダーが次の一手として掲げる戦略は、まさに地銀が生き残る道を示すものとなるだろう。(記事:Paji・記事一覧を見る

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