次世代に負担を残す財政赤字 第2の高橋是清翁の出現は不可能か!?

2022年9月1日 08:02

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 日本の財政状況は、プライマリーバランス(財政収支、以下PB)の現状に見て取れる。周知の通りPBは「(税収+税外収入)-政策投資費」で算出される。政府は2018年に「2025年度の黒字化(プラス)を目指す(★)」を掲げ、財政再建に取り組む姿勢を示した。

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 18年のPBは、1375兆2800億円の赤字。だが今年4月1日時点は、4361兆760億円。3.2倍近くに赤字(マイナス)幅は拡大している。ちなみに20年11月に日本政府が公表した「経済財政白書」から「★」の記述自体が消えている。

 1990年度の歳出は総額66兆2000億円。22年度は107兆6000億円と、41兆4000億円増加している。歳入も66兆2000億円から107兆6000億円に増加しているが、内実は公債金(借金)が5兆6000億円から36兆9000億円。税収等収入の10兆円増を大きく上回っている。

 致し方ない点も、ある。所得の伸び悩み(物価上昇率等を勘案するとマイナス)という流れの中で、社会補償費の増加(11兆6000億円から36兆3000億円)&新型コロナ予備費(5兆円)計上。ただ14兆3000億円から24兆3000億円に膨らんだ国債費(過去の借金の返済・利息)を背負うのが、次世代・若者世代と勘案すると少子化時代の大きな重荷になることは論を俟たない。岸田内閣は「新資本主義」は謳っても、前提となるべきと考える「財政再建」論には口を封じている。

 何か、執るべき方策は無いのか。

 フッと久方ぶりに頭に去来したのは、俗に言う「高橋財政」。犬養毅内閣以来7代の内閣で蔵相を歴任した高橋是清翁である。前の蔵相:井上財政の「金解禁・緊縮財政」が大恐慌により破綻した後を犬養内閣下で、恐慌(デフレ)対策と満州事変の戦費捻出という2つの課題を課せられた。

 高橋翁の施策は「財政出動」と大くくりに称されるが、見事な手順を踏んでいる。

 1931年に発足した犬養内閣の蔵相として、就任当日に金の輸出(金本位制)を停止した。必要に応じて金をいくらでも増やせる管理通貨制に移行した。当然、円安が進んだ。輸出に追い風が吹いた。そこで日銀を引受先とする国債の発行に踏み切り、歳出を大幅に増やした。日本は世界に先駆けて世界恐慌から脱した。

 だが高橋翁の施策は、ここで終わってはいない。海外からの円安に対する「為替ダンピング」非難に対し景気回復の道筋を確認した時点で、赤字公債発行によるインフレを懸念。財政均衡を意識した。1936年度予算で、「公債漸減」「軍事費抑制」を打ち出した。結果としてこれが二・二六事件での暗殺に繋がるわけだが・・・、以降、日本財政は歯止めを失い膨張の一途を辿ってしまった。

 いま日本には「第2の高橋翁」を生み出す下地は無いのだろうか!?(記事:千葉明・記事一覧を見る

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