【小倉正男の経済コラム】「スタグフレーション」の兆候、「需要不足」が根本原因

2022年4月28日 08:52

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

■企業物価は「第3次オイルショック」、消費者物価は控えめなインフレ

 世界はすでにインフレに覆われている。米国などが典型的であり、3月の消費者物価は前年同月比8・5%アップと40年ぶりの高騰となっている。しかし、日本のインフレは異様な展開となっている。

 日本の消費者物価は、4月に製品値上げが顕著になってきたが米国のインフレに比べると相当にマイルドだ。需給ギャップでいうと日本は「需要不足」、企業サイドの供給過剰が否定できない。つまり、企業各社は原材料高騰をフルに価格転嫁=値上げできていない。企業経営としては、フル価格転嫁したいが実現は困難と判断している。一応値上げはしたものの小幅にとどまっている。いわば様子を見ながらチャンスを捕まえて、小刻みに再度の値上げを狙う意向である。「川下」の消費者物価はまだインフレになりきれないでいる。

 企業物価指数(企業間で取引される物価指数)は、1月9・2%、2月9・7%、3月9・5%(前年同月比)と異常な高騰が続いている。企業物価は、原材料などの高騰が反映され、インフレはすでに昨年から爆発している。2月9・7%、3月9・5%アップは「第2次オイルショック」直後の1981年以来でトップ1位、同2位の上昇率である。

 企業物価の高騰はすでに歴史的水準の推移となっている。「川中」の企業物価は「第3次オイルショック」に見舞われている状態にほかならない。ロシアのウクライナ侵攻が危機段階にあった2月、さらに本格化した3月には、原油、天然ガス高騰に加えてアルミニウム、ニッケルなど非鉄金属、石油・石炭製品、化学製品、鋼材、木材、穀物が軒並みに高騰した。為替の「円安」傾斜による輸入品物価の上昇という要因も加わっている。

■消費者物価は4月2%アップ程度、「スタグフレーション」の兆候

 一方の「川下」、すなわち消費者物価(価格が季節で変動する生鮮食品を除く総合)は、上昇しているものの企業物価の高騰に比べて小幅なものになっている。消費者物価は2021年11月0・5%、12月0・5%、2022年1月0・2%、2月0・6%、3月0・8%(前年同月比)の推移で、「川中」の企業物価の高騰がまるで嘘のようである。

 日本の3月の消費者物価0・8%アップは、米国の3月消費者物価8・5%アップと比較するときわめてマイルドなインフレにとどまっている。企業各社は、4月に一斉に製品値上げに動いている。スーパーなどで価格は改定されており、マーケットでは価格の変化から「インフレ」を肌身で実感できるに違いない。しかし、それでも4月の消費者物価はせいぜい2%アップ程度にとどまるとみられている。

 消費者物価からみると、日本の消費者はインフレの直撃を何とか避けられている。幸いな事態ともいえるが、先行きを睨むと問題をかなり孕んでいる。生産者である企業各社とすれば、原材料高の価格転嫁が十分に進捗できていない。いわば企業各社がインフレの直撃を引き受けている。結果として企業各社は、「コスト高・製品安」傾向に陥らざるをえない。原材料などコスト高を価格転嫁できなければ、企業業績・収益には低下要因になる。

 企業業績への重圧は、従業員の賃上げに影響が及ぶことになる。従業員のほうだが、現状でも十分な賃上げは実現できていない。大手企業正社員ベースで2%程度の賃上げとみられる。消費購買力が上がる状況にはない。インフレと企業業績低下、個人消費低迷など景気後退が同時に進行する「スタグフレーション」に陥る兆候が出ている。

■「スタグフレーション」=打開には消費減税などテコ入れ策が緊急課題

 米国のインフレは、需給ギャップでは「供給不足」が根底にある。すなわち、米国は景気の下地が良いわけである。人手不足から雇用の増大、賃金の上昇というプラス循環が作用している。日本の「需要不足」とは対極にあり、米国はインフレをある程度吸収できる余力を持っている。インフレを制御する金融引き締めなど政策面も十二分に機能している。

 それでもバイデン大統領、あるいは民主党の支持は上がっていない。中間選挙(11月8日)では苦戦が予想されている。雇用が広がり賃金が上がってもインフレで相殺されることに不満が出ている。「スタグフレーション」に直面している日本からみたら、米国はやや贅沢な状況にみえる。米国経済としては、大枠で健全さを維持できている。

 日本の企業経営は試練期に突入する。新型コロナ感染症に翻弄され続けてきたが、それに加えて「スタグフレーション」の試練に対応しなければならない。日本の「需要不足」は慢性的で、この「需要不足」が宿痾といえる長期デフレの根底をなしてきたのは見逃せない。「アベノミクス」では、訪日旅行者(2019年3188万人)のインバウンド需要、とりわけ中国人旅行者の「爆買い」への依存、あるいは株高による国内富裕層の高額需要などで穴埋めしてきた。いまはこのインバウンド需要がスッポリと欠落している。

 日本経済は停滞、ないしは下降という厳しい局面に陥ることを覚悟しなければならない。1ドル=130円接近という「円安」に陥っているが、インフレ対応の金融政策余力の窮屈さも日本の前途多難を示している。端的にいえば、「需要不足」の解消が根本的な課題であり、緊急テコ入れ策として「消費減税」などを打ち出す必要を指摘しておきたい。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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※この記事は日本インタビュ新聞社=Media-IRより提供を受けて配信しています。

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