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土壌微生物からアルツハイマー治療薬候補の可能性 京大iPS細胞研究所ら
今回の研究の概要(画像: 京都大学の発表資料より)[写真拡大]
神経細胞が産生するアミロイドβは、アルツハイマーの原因分子として知られている。京都大学iPS細胞研究所は2日、アミロイドβの量を減らすベルカリンAを発見したと発表。この物質は今後、アルツハイマー病治療薬候補となっていく可能性が期待できるだろう。
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今回の研究は、京都大学iPS細胞研究所の近藤孝之特定拠点講師、井上治久教授、日本マイクロバイオファーマらの研究チームにより行われ、2日に英国科学雑誌『Scientific Reports』でオンライン公開された。
菌などの微生物の代謝によって作られる物質の中には、薬品としての作用を持っているものがある。世界最初の抗生物質であるペニシリンも、ペニシリウムという菌の培養液から発見された。また腸内細菌や口内細菌などの微生物が、アルツハイマー病をはじめとした病気の発病や進行と関連があるという様々な報告が行われてきている。
今回研究グループは、培養が非常に難しい土壌微生物について、98種類の微生物の代謝物を遺伝子工学的に作りだした。それらの代謝物を、アルツハイマー病患者のiPS細胞由来の大脳皮質神経細胞に投与。そして産生するアミロイドβの量を変化させる分子を探し出した。
その結果、濃度に依存してアミロイドβの産生量に影響を与える物質として、2種類の代謝物を発見した。まず1つ目はベルカリンAで、ミロテキウム属が産生する分子だ。高濃度の時は神経細胞を傷つけるが、低濃度では損傷せずにアミロイドβの産生量を減らすことがわかった。
もう1つは、土壌由来のストレプトマイセス属細菌ストレプトマイセス・パクトムの培養液から分離された、Mer-A2026Aである。Mer-A2026Aは、血管拡張作用がある化合物としてこれまでに報告されていた。今回の研究では、アミロイドβの量を減らし神経細胞を保護する面と、アミロイドβ量を増加させて危険因子となる両面の働きがあると考えられた。
今後これらの微生物の代謝物が、アミロイドβの産生に与える影響のメカニズム、アルツハイマー病の発症や進行に与える詳しい影響などをさらに検討していく必要があるだろう。これらの代謝物を元にした、アルツハイマーの予防や診断、治療薬の開発に繋がっていくことに期待したい。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)
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