ロシアのウクライナ侵攻で火星探査計画にも暗雲 欧州宇宙機関

2022年3月4日 08:20

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ESAが計画している火星ローバーの想像図 (c) ESA

ESAが計画している火星ローバーの想像図 (c) ESA[写真拡大]

 ロシアのウクライナ侵攻は、人類の科学の発展にも悪影響を及ぼしそうだ。欧州宇宙機関(ESA)がロシア・ロスコスモス社(Roscosmos)と共同で進めている火星探査計画「ExoMars」は、2022年の後半に打ち上げが計画されていたが、ロシアに対する経済制裁措置の影響が顕在化しつつあるからだ。ESAは2月28日、このミッションが2022年中に開始される可能性は「非常に低い」との見解を明らかにした。

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 もともとは2020年に打ち上げが予定されていたミッションだが、技術的トラブルや新型コロナウイルスの影響を受け、2022年9月に打ち上げが延期されていた。2022年1月の時点では、9月の打ち上げは予定通り行われるとの見通しをESAは示していたが、結果的に直近のロシアのウクライナ侵攻によって、今後の見通しがたてられない状況に陥ってしまった。

 EUはロシアに対する経済制裁を完全履行する姿勢を崩していないため、この計画は延期どころか、最悪の場合、遂行が困難になる懸念すらあるかもしれない。問題はこれだけにとどまらない。ロシアも参画している国際宇宙ステーション(ISS)の運用も、危ぶまれている状況にあるのだ。

 NASAはISSの運用を、現在ロシア抜きで具体的に進めるための方策を模索中との情報もアナウンスされており、人類の大いなる野望である宇宙開発にも深刻な影響を及ぼしつつある。ロシアが国家として安定な状態を維持できなくなれば、宇宙開発に資源や人材を投入できる余裕もなくなるかもしれない。

 ロシアは宇宙開発において、最先端技術を期待されているわけではない。だが20世紀に大きな実績を残した安定的に人類を宇宙に送り込む技術を有しており、現在においては欧米ではこの実績に勝る選択肢がないことが気がかりだ。

 今回のウクライナ危機がもたらした状況が、人類の宇宙開発にとってどこまで影響を及ぼすかは、誰にも予測がつかない。しかしかつてのソ連が20世紀に築き上げてきた輝かしい実績も、風前の灯にあると言わざるを得ない状況に陥っているのかもしれない。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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