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米国から捨てられるのも目前…「危うすぎる岸田外交」から見えた「ウクライナと同様の道を行く」日本の末路
*10:52JST 米国から捨てられるのも目前…「危うすぎる岸田外交」から見えた「ウクライナと同様の道を行く」日本の末路
● 日露協議、説得力に疑問
2022年2月15日、外務省は「林芳正外務大臣が、レシェトニコフ・ゲンナジヴィチ・ロシア連邦経済発展大臣とロシアへの経済協力を協議する『日露政府間委員会共同議長間会合』をテレビ会議方式で実施した」と発表した。この前日、岸田文雄首相は、ウクライナのゼレンスキー大統領、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長との首脳会談を行っている。
首相が外務省に、武力攻撃を行った場合の制裁を検討しているロシアを相手に、経済協力の会合を持つことを許したことは国際的に誤ったメッセージを送る可能性がある。自民党の高市政調会長は2月17日の政調審議会において、「G7の結束を乱そうとするロシアを利することになる。結果的に今回の日露協議は、ロシアの術中にはまった形だ」と政府の対応に不満をあらわにしている。
2月19日昼(日本時間)、林外務大臣は、ドイツ南部ミュンヘンでの先進7カ国(G7)緊急外相会合に参加し、ウクライナ情勢の対応を協議している。会合では、ウクライナ国境付近に集結しているロシア軍の行動に「重大な懸念」を共有し、ロシアがウクライナへ軍事侵攻した場合には「ロシアに甚大なコストを招く制裁を課す」ことで一致した。
そして、林大臣は「力による一方的な現状変更を認めないとの国際社会の根本原則に関わる問題だ。実際に軍事侵攻が起き場合、制裁も含め国際社会と連携して適切に対応する」と語っている。わずか4日前に経済協力の会合を持った林大臣のこの発言が、ロシアにどのように受け止められ、どれだけ説得力のある内容か疑問が残る。
● 中露海軍、日本周辺でも威圧行動
岸防衛大臣は、2月15日の定例会見において「ロシア国防省は1月から2月にかけて、ロシア海軍の全艦隊が、各艦隊基地周辺の海域と地中海、北海、オホーツク海などにおいて海軍演習を実施することを承知している。2月1日以降、海上自衛隊の護衛艦『しらぬい』及び哨戒機『P−3C』が日本海及びオホーツク海の南部で活動するロシア海軍艦艇24隻を確認した。ロシア海軍の全艦艇によるこの時期の大規模な軍事演習は異例であり、昨今のウクライナ周辺におけるロシア軍の動きと呼応する形で、ロシア軍がロシアの東西で同時に活動し得る能力を誇示するため、オホーツク海や太平洋において活動を活発化させていると考えられる。
ロシアの戦略原潜の活動領域であるオホーツク海の、軍事的重要性の高まりを背景とした活動の一環でもあるとみられている。防衛省として、ウクライナ情勢を含むロシア軍の活動に重大な懸念を持って注視しており、軍事動向について情報収集・警戒監視を継続する」と強調した。
日本の安全保障を主管する省として、ウクライナ情勢と、オホーツク海や日本海で行われているロシア軍の活動が連動したものであることをきちんと認識した発言と評価できる。
2月4日、開幕した北京オリンピックの開会式に出席したプーチン大統領と習近平主席が首脳会談を行い、中国が北太平洋条約機構(NATO)の拡大に反対し、ロシアは「一つの中国」の原則を堅持するとうたった共同声明に署名し、両国の戦略的協力関係を内外に知らしめた。
中露海軍は、毎年日本周辺で合同演習を繰り返し、昨年10月には、日本の津軽海峡、太平洋沿岸および大隅海峡を通峡するという威圧行動にでている。さらに、2019年7月には、日本周辺空域で中露軍機が合同パトロールを行い、ロシア空軍機が竹島領空を侵犯するという事件も起こしている。
新聞報道によると、自民党の佐藤正久外交部会長は2月18日の自民党の会合で、「今日のウクライナを明日の台湾にしてはいけない、強い態度でロシアの軍事侵攻を抑制するよう政府に要求した。対応を誤ると台湾への軍事的圧力を強める中国に対し、誤ったメッセージになりかねない。」との見方を示している。
● 対岸の火事ではない
外務省のウクライナ情勢に対する認識には疑問が大きく残る。ロシアのウクライナへの軍事侵攻を抑えるためには、外交ルートを確保しておく必要があるのは理解できる。しかしながら、今回林大臣が会談を行ったのは、レシェトニコフ経済発展大臣である。そのため、外交、軍事分野における発言力は限定的と考えられる。また、外務省HPには林大臣が再三にわたりウクライナ情勢の懸念を伝え、外交的解決を追求するように求めたとしているが、それに対する先方の反応は明らかにしていない。
経済分野における日ロ協力をこのタイミングで行う必要性が低い以上、予定されていた協議を取りやめることでロシアに日本政府の本気度を伝える方がより効果的であっただろう。
ウクライナ情勢への対応を日本と関係のない遠い欧州での話として片づけてはならない。ウクライナは、2014年にロシアのハイブリッド戦に敗れ、クリミアの併合を許してしまった過去がある。小野寺五典元防衛大臣は、報道番組でロシアの軍事侵攻の緊張が増しているウクライナ情勢を巡り、「この問題は必ず日本に影響する。自国は自国で守るという姿勢がなければ、日本もウクライナと同じようなことになる」と警告している。
日本が自らの安全保障を日米安保のみにすがろうとすれば、米国から見捨てられる可能性がある。自分の国を自分の手で守ろうとしない国に誰が、手差し伸べてくれるだろうか。現在のウクライナ情勢は、台湾や尖閣に勢力を伸ばそうとする中国の姿とオーバーラップする。ウクライナ情勢が決して「対岸の火事でない」ことを銘記し、国際社会と強調し、毅然たる態度で対処すべきであろう。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。
写真:つのだよしお/アフロ
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