関連記事
東レ中興の祖から聞いた、「人員のスリム化は好況時に行う」を改めて噛みしめる
1月4日付けの朝日新聞デジタルが、『希望退職を募る上場企業、2年連続80社以上 商工リサーチ調べ』と題する記事を配信した。
【こちらも】円安の流れ・背景に、田中角栄・福田赳夫コンビならどう立ち向かうのだろうか!?
東京商工リサーチの昨年末までの集計では、2021年に募ったのは少なくても80社。募集者数(非公表の企業は応募者数)の合計は判明分だけで1万5000人を超えた。20年は1万8635人で、2年続けて1万5000人を超えるのは02、03年以来。業種別でみると20年はアパレル・繊維が18社と最も多く、21年も最多はアパレル・繊維の12社で電気機器9社/観光サービスが7社だった、という内容である。
改めて、東京商工リサーチのレポートを読み返してみた。朝日新聞が伝えた内容をより詳細に伝えているが、気になったのは『上場企業を含め業績の二極化が拡大する中で、22年の雇用情勢はさらに不透明感が増している。「オミクロン株」の発生で第6波がどうなるか想像できないが、世の中の雇用環境がどう変容するか、よりタイムリーな把握が必要だ』であり、【22年の展望~円安・原料高・人手不足などで倒産は増勢へ~】という部分だった。
22年の展望については、改めて背筋にゾッとするものを覚えた。危惧する要因として、以下が指摘されていた。
(I)21年の倒産が歴史的低水準で終始したのは、国・自治体・緊急避難的な資金繰り支援の影響だ。「実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)」「各種給付金・助成金・特例リスケ」等で、一時的な資金繰り緩和に拍車をかけたからだ。
(II)が副作用の過剰債務問題が起こる危惧は払拭できない。例えばゼロ・ゼロ融資は、「最長5年間の元本返済棚上げ・3年間の利子補給」が柱だ。だがこのカンフル剤は効果が薄れると劇薬になりかねない。企業の自立化が遅れるほど、その危険性は高い。
(III)既に政府系金融機関では返済が始まった企業の8%が、返済猶予を要請している。
つまり事業規模を超えた借入金を抱えた企業は、その場逃れの「退職勧告」に晒されることになる。20年・21年を超える「希望退職者募集」が多発しかねない。経済復活の大きな壁になりかねない。
東京商工リサーチのレポートを読みながら、1人の経営者の顔を思い出した。「東レ中興の祖」と呼ばれた、故前田勝之助氏(元東レ社長・会長・名誉会長)である。拙著『不況にも強い一流の経営』の取材でお世話になった。
1987年に平取締役から社長に抜擢された前田氏は「不況に弱い東レ」の再建を、僅か2年余で成し遂げて見せた。その手法は拙著をお読みいただくとして、取材の中で「企業のスリム化、言葉を選ばずに言えば人員の圧縮はどんなタイミングでやるべきか」と聞いた。
返ってきた答えは、「企業に好不調はつきもの。誰も大痛手を負わなくて済む好況時にこそ、余裕をもってスリム化に取り組むべき。不況時のスリム化は誰も幸せにしない」。
事実、バブル期という好況時に東レはこんな施策を執っている。87年3月期に1万7096人だった社員数は、92年9月期で1万3798人に減少している。6年間で累計3298人が子会社への転籍を含め、スリム化されている。
言うは易いが行うのは難い。それができる企業が生き残り、勝ち残ると言えよう。(記事:千葉明・記事一覧を見る)
スポンサードリンク