NASA、次世代小惑星衝突監視システムを始動 不確定要素も自動計算可能に

2021年12月8日 16:38

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地球近傍天体研究センター(CNEOS)によって計算された2,200の潜在的に危険な物体の軌道 クレジット:NASA / JPL-Caltech

地球近傍天体研究センター(CNEOS)によって計算された2,200の潜在的に危険な物体の軌道 クレジット:NASA / JPL-Caltech[写真拡大]

 NASAジェット推進研究所は6日、次世代小惑星衝突監視システム「セントリーII」が活動を開始したことを発表した。同研究所の地球近傍天体研究センターでは、365日24時間体制で地球に衝突するリスクがある小惑星(Near-Earth object、NEA)の探索と監視を行っている。

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 これまでに約2万8,000個ものNEAが発見されており、現在も毎年約3,000個の割合で新たなNEAの発見があるという。旧システム「セントリー」は約20年間にも及ぶ運用実績があり、この分野で多くの実績を残してきた。だが、時折見せるNEAの不規則な挙動を自動予測する機能がなく、このようなケースではその都度手動で軌道計算に補正を加える必要があった。

 新システム「セントリーII」では、例えばヤルコフスキー効果の自動処理計算機能を備えており、NEA軌道計算の手動補正手間が、全く必要なくなったという。ヤルコフスキー効果とは、自転する小惑星の日照面で起こる温度上昇により、赤外線放射がごくわずかな推進力を生じさせ、小惑星の軌道に微妙な影響を与えることを指す。

 ヤルコフスキー効果の計算が厄介なのは、小惑星が不規則形状をしているからだ。天体には球形を保つことができる限界直径があり、それは概ね400km程度である。例えば太陽系で球形をなす最も小さな天体である土星の衛星ミマスの直径は、396kmである。NEAのほとんどはミマスより小さく球形であるわけがない。従ってヤルコフスキー効果の補正も、NEAの形状や自転周期、さらには日照時間を細かく把握しなければならない。

 ヤルコフスキー効果の補正一つをとっても非常に大変な作業であることが、これでお判りいただけたであろう。これに加えてセントリーIIでは、現在想定しうるNEAの不確定要素をすべて盛り込んだ自動計算を可能としている。これによりNEA監視体制はほぼ完ぺきなものとなったという。

 セントリーIIのアルゴリズムは非常に複雑であり、これを迅速に処理していくためには、非常に高度なコンピューター処理能力も求められる。またこのところの望遠鏡性能の劇的向上は、NEA発見数の激増を予感させるが、これに見合うソフトウェア技術やコンピューター性能の進歩が、NEA監視体制を万全にするためにようやく歩調を合わせてきたことになる。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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