森林火災が北極の気温上昇を大幅に加速 名大などが実証

2021年11月7日 07:38

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2018年に行なわれた航空機観測(PAMARCMiP)時に機内から撮影された写真。汚染大気の層が見られる。模式図は中緯度から北極域に輸送されるBCを表す。(画像: 発表資料より)

2018年に行なわれた航空機観測(PAMARCMiP)時に機内から撮影された写真。汚染大気の層が見られる。模式図は中緯度から北極域に輸送されるBCを表す。(画像: 発表資料より)[写真拡大]

 北極付近の平均気温は、地球全体平均と比較して約2倍の速さで上昇し続けている。その要因として、二酸化炭素だけでなく、化石燃料などの燃焼で発生する黒色炭素エアロゾル(BC)が注目されてきた。だがBCは化石燃料燃焼などの人的原因だけでなく、森林火災など自然由来のものについても影響が示唆されてきた。

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 名古屋大学や東京大学らの研究グループは5日、これまでの数値モデルでは、森林火災によるBCの影響が、過小評価されてきたことを明らかにしたと発表した。

 北極付近に存在するBCの多くは、北極圏外で発生して輸送されてきたものと考えられている。これまでは北極付近において、BCの高度分布を航空機で観測するのみであったため、発生源や輸送過程については不確実性が多かった。

 そのため、人的原因で発生したBCと森林火災由来のBCとの切り分けは、正確に行われているとは言い難い状況であったと言う。また、各観測結果を相互に比較した解析が行われてこなかったため、BC濃度の年次変動について総合的な評価は行われてこなかった。

 今回の研究では、2008年、2010年、2015年、2018年の観測データを比較し、その変動の要因を調査。結果、人工衛星による北緯50度以北での森林火災の検出数とBC濃度に、相関があることが明らかになった。中でも中緯度(北緯45から60度)の東西ユーラシアにおける森林火災の検出数が、高い相関を示していることも判明している。このときに発生した森林火災による汚染大気が北極付近まで長距離輸送されたと考えられると言う。

 これらの結果から、従来の数値モデルで評価されていた以上に、森林火災由来のBCが寄与していることが示された。特に北極付近では春季の雪氷融解次期の変化などに、BC濃度が大きく影響し、温度変化をもたらすと考えられている。地球温暖化が進むにつれて、大規模な森林火災も発生しやすくなることが想定されるため、今回の研究結果をもとに気候変動の予測を見直すことも必要となる。

 今回の研究成果は「Atmospheric Chemistry and Physics」誌のオンライン版に4日付で掲載されている。

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