時間に制限のある中で、どうキャリアを築いていくべきか? 家族と職場にとって最良の選択をするためにやるべきこと(最終回)

2021年8月20日 08:43

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記事提供元:biblion

 (最終回)日本ではまだ数パーセントしかいない、男性の育休取得者。でも、いま確実に育休をとる男性が増えています。なぜでしょうか? 本連載は、書籍『なぜパパは10日間の育休が取れないのか?』から、パパたちが育休と向き合うことでどんなことを考え、感じ、乗り越えてきたのか、実際のSTORYとあわせてお伝えします。本連載は7回を予定しています。ご興味いただけた方は記事最後に紹介している書籍『なぜパパは10日間の育休が取れないのか?』もぜひご覧ください。

時間に制限のある中で、どうキャリアを築いていくべきか? 家族と職場にとって最良の選択をするためにやるべきこと(最終回)

 本連載は、書籍『なぜパパは10日間の育休が取れないのか?−家族も、自分も、会社も、みんなが幸せになる育休の取り方・過ごし方・戻り方−』(2021年4月発行/著者:成川 献太、パパ育休2.0プロジェクトメンバー)の一部を、許可を得て抜粋・再編集し収録しています。

育休を経て変わった、パパのキャリア観

 独身時代は、自分の時間を自由に使うことができる人も少なくありません。そのため働く時間を無制限に投下し、その投下した圧倒的な時間により大きな成果を出す、という働き方をする人もいます。

 一方、結婚して家族ができると、家族とも時間を共有したいという思いから、働く時間に制限をかける人もいます。
 また育休を取得した人は、一時的に仕事を離れることで、自分の働き方や自分の時間の使い方、そして自分のキャリアに対して深く考えようになることがあります。
 そんな「家族・自身のキャリアとの関係」に向き合ったパパのSTORYです。

【STORY】3つの職場で、計3回の育休取得。それでもキャリアは諦めない

 このSTORYを話してくれた方
 ・育休パパ 橋口翔太さん 
 ・職業 宇宙機関(研究開発員)
 ・家族構成(育休取得時) 妻(会社員)・長女(6歳)・次女(4歳)・三女(0歳)
 ・育休歴 1人目、2人目、3人目が生まれた直後から、それぞれ1週間の育休を取得。妻も合わせて育休を取得(妻はそれぞれ1年間程度)。「お前そんなんじゃ、やっていけないぞ」
 2014年、0歳の長女が熱を出して早退を申し出たときの上司のセリフでした。

 「男で育休取るやつは初めて見た」
 2016年、次女の育休の取得を相談したときの、これはまた別の上司の反応です。

 私は、3回の育休をそれぞれ1週間ずつ、毎回違う組織(会社)で取得しました。1回目は外資系企業、2回目は内資系企業、3回目は国立研究開発法人と、組織の形態も様々です。

 育休を取るお父さんは増えてきていると思いますが、私のようなケースはまれではないでしょうか。そんな経験を踏まえて、育休を取得した背景と、取得した後の感想、それから総合的な考察をお伝えできればと思います。
 本稿が、性別による固定観念に左右されることなく、それぞれの家族が幸せな家庭を築くための一助になれば幸いです。

3回の育休取得。何事も段取りが重要だと学んだ

 1人目の妊娠中、妻は悪阻が重く、産後の体調不良を想定し、育休の取得を申請しました。
 産まれてみると想定以上に妻の体調が悪く、特にメンタル面の不調は顕著で、毎夕のように不安定になりました。そのサポートするという意味合いが強かったです。

 初めての出産、慣れない新生児との生活に、家族で順応していくために精いっぱいでした。加えて、当時はネット通販も今ほど広まっていなかったため、買い出し要員としての役割を担っていました。

 2人目の出産は、1人目の自然分娩と違い計画分娩であったため、育休の計画は立てやすく、業務の調整もスムーズでした。
 また妻の体調の変化や、産後に必要な物の準備もある程度は頭に入っているので、不測の事態というのが起こりづらいです。ただこれは、1人目で育児に積極的に参加しなければ難しかったと思います。

 意外だったのは、育休取得を上司に相談した際に、ネガティブな意味で「男で育休とるやつは初めて見た」と言われたことです。育休という制度は整備されていますが、まだ社員の理解が追い付かないという現状を実感しました。

 そして3人目。まさに現在育休中で、新生児の面倒をみながらこれを書いています。3人目ともなれば慣れたもので、様々な面で根回しができるようになってきます。

 例えば、同僚(できれば育児中の)の共感を事前に得ておくことは結構大切で、育休中のサポートをしてもらえることもあります。また上司の中でも育休に積極的な人とそうでない人が分かるようになってくるので、誰に、いつごろ、どこまで相談しておくべきなのかが何となく判断できます。

 思えば1人目の時は、圧倒的に知識不足でした。いつ会社に報告するのがベストか、どんな制度が使えるのか、それから、妊娠すると女性の体がどのように変化するのか、など。

 これから初めての育休を取る方々には、ぜひこういう情報収集や準備を面倒がらずにやって欲しいです。何事も段取りが大事です。

育休は、家族・キャリアの両方に意味がある

 正直、育休期間そのものに対して、あまり強い記憶は残っていません。というのも、妊娠から出産・育児をする上で、育休を取る期間はそのごく一部にすぎないからです。
 それでも、育休を取得するという行為には2つの大きな意味があると考えています。

 1つ目は、家族の関係が変化する重要な転換期に時間がつくれることです。
 新たな命を迎えることは、家族関係に大きな変化をもたらします。恐らくほとんどの夫婦が、想像以上の困難を経験し、充実感を得ると思います。その序盤である妊娠中に夫婦で育児やキャリアについて話し合い、出産の段階でしっかり休みを取り、変化に対応するための時間を確保することは、その後の家族関係にとってとても重要です。

 2つ目は、多様な価値観を知る機会となることです。
 育休を取得することは、上司や同僚にあなたが育児に積極的であることを認識させます。これはキャリアにおいて悪いことばかりではなく、今後増えるであろう女性社員や、育休を取得する後進の男性社員の視点を理解し、共感を得るきっかけになるでしょう。

 合計してわずか3週間の育休ですが、それでも育休という形式で休みを取ったおかげで認識できた視点かもしれません。育児の序盤で育休という時間を確保したからこそ、それを我が事と認識できるのだと思います。
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それぞれの家族にあった選択肢を自由に選べる社会に

 男性の育児参加への必要性が謳われて久しく、各企業の人事制度としても整備されてきています。一方で、社員の意識という点ではまだ課題があると感じています。

 具体的には、今ほど育児に参加してこなかった管理職世代に理解されず、長女が熱を出して早退を相談した際には「お前そんなんじゃ、やっていけないぞ」と言われたことがありました。
 世代が違うゆえに価値観が違うことは、仕方がないことだと思っています。自分の考えを全面的に受け入れて欲しいのではなく、現状の制度や世代間の価値観の違いを理解した上で、どうすれば家族と職場にとって最良の選択ができるのか、本人が考える必要があります。

 また、人事評価という点でも課題があると考えます。
 男女ともに子どもをもつ人ほど、思うようなキャリアを構築しづらい環境があります。これまでの、転勤や長時間労働ができる社員を評価するような企業文化が残っている場合は、その仕組みの中に無理やり「育児中の親」を労働力として組み込もうとしても、うまくいきません。

 育休を取得することが組織の多様性や社員の定着を促進する重要な制度であることを踏まえた上で、人事評価制度を再設計するべきではないでしょうか。つまり、育休と人事評価はセットで設計する必要があるのです。

 男女の性差で育児や仕事へのコミットを制限されるのではなく、誰もがその家族や個人の志向に合った選択肢を選べる社会が理想ではないでしょうか。
 出産したからといって父親が必ず育休を取るべきというわけではないし、母親もまた同じです。家族の在り方はそれぞれです。その家族の在り方を話し合うことがとても重要です。

 子どもが産まれるまで、私は仕事で評価されることを重視してきました。そのため残業や休日出勤は当たり前でした。しかし、育児により時間に制限ができてからは「夫婦でどう効率よくキャリアを築いていくか」を考えるようになりました。

 妊娠・出産と大きな転換期を迎える段階で、夫婦で話し合うことができなければ、良い結果にはならないでしょう。何度も喧嘩しながら、少しずつ夫婦の認識を合わせていくのです。

 そして、これは私個人の考えですが、子どもたちはいつか独り立ちして私たちの手を離れていきます。
 そうなったとき、私たち「家族」はまた「夫婦関係」に戻ってゆくのです。10年20年先の家族の形を見据えながら、今の行動を夫婦で考えていく必要があります。

 娘たちが将来、充実して生きていける社会をつくるために、私たちの世代が声を上げていく意味があると思っています。

家族の在り方を話し合い、夫婦それぞれのキャリア構築を考える

 橋口さんのお話からは、子どもができたことによって自身のキャリア観が大きく変わったという印象を受けました。
 「今、何を重視するか」というポイントは、日々パートナーとの話し合いによって変わっていくものですし「これが正解」というゴールもないように思いました。
 だからこそ、子育てが始まったりパートナーが仕事を離れたり戻ったりするタイミングに合わせて、お互いのキャリア観をすり合わせていくことが大切なのかなと思いました。

著者:成川 献太

著者:成川 献太広島県で小学校教員を務める3児の父。第3子誕生により、2020年8月より1年間の育休を取得。その際「家族との向き合い方」で悩んでいたところ、他のパパたちも同じように悩んでいることを知る。家族と向き合うパパママを増やしたいと、出版プロジェクトに向けて行動を開始。育休&共働きコミュニティ「ikumado」メンバー。

ikumado – 育休&共働きコミュニティ

ikumado – 育休&共働きコミュニティ子供が産まれても、社外のいろんなひとと自分軸の話をしたい男女が集まる参加無料のコミュニティです。イベントは主に「ZOOM」を使っていますので、自宅にいながら気軽に参加できます。内容は、キャリア、ビジネス、ワークライフバランスなど。共感いただける方、ぜひFacebookでつながりましょう!■人生が変わる、幸せな育休とは■・パパ育休って、ぶ...
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 15人のパパ・ママが、育休の取得前から育休中・復帰後に感じたこと、何に悩みどのように解決していったのか。家族構成も職業や立場もさまざまなパパ・ママのストーリーが、この1冊に詰まっています。
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