金星からの自然電波放射を観測 NASA

2021年5月6日 07:37

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金星に接近するNASAのパーカーソーラープローブ(想像図)(c) NASA/Johns Hopkins APL/Naval Research Laboratory/Guillermo Stenborg and Brendan Gallagher

金星に接近するNASAのパーカーソーラープローブ(想像図)(c) NASA/Johns Hopkins APL/Naval Research Laboratory/Guillermo Stenborg and Brendan Gallagher[写真拡大]

 NASAは2018年8月12日、太陽の外部コロナ観測を目的とした宇宙探査機パーカーソーラープローブを打ち上げた。この探査機は金星を何度もスイングバイに利用し、太陽の引力で加速された機体を減速させ、徐々に太陽に接近しながら、最終的には太陽から約590万kmの位置にまで到達させる計画となっている。NASAは3日、この探査機が2020年7月、スイングバイにより金星からわずか833kmの地点を通過した時、金星からの自然電波放射を捉えたと発表した。

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 惑星の大気が太陽放射を受けると、分子中の電子が励起状態となって分子がイオン化し、分離したイオンが大気分子層の外側に電離層を形成する。この電離層が電波発信源となっており、そこを探査機が通過した際に自然電波放射が観測されるのだ。

 地球では、電離層は上空800kmあたりまでしか存在しないため、今回のスイングバイによる金星への接近では、電離層を通過できるかどうかは微妙な距離にあった。したがって、金星からの電波を今回捉えることができたのは非常に幸運であった。

 実はNASAは、過去にもパイオニアビーナスという金星探査機により、太陽活動の極大期に金星の電離層からの電波を捉えていた。その時のデータと比べて、今回の接近時期は太陽活動の極小期開始から半年後であったため、当時の電離層の厚さと比べてはるかに薄くなっていることが確認されたという。

 NASAでは今回の金星への接近をフライバイと一貫して表現している。スイングバイとフライバイに何の違いがあるのか疑問が湧くのだが、基本的には同じことを意味しているものの、フライバイは軌道を変えるために利用する天体に接近した際に、その天体の観測も実施する場合を特にさすのだという。

 惑星の電離層の状況は地上観測では分からない。探査機が直接電離層を通過した際に得られた情報がないと詳しいことは分からないのだ。

 電離層の観測と分析により、太陽放射が金星の大気進化に与えてきた影響が理解でき、同じような兄弟惑星である地球と金星でなぜ、大気に現在のような大きな違いが生じてしまったのかを解明するのに役立つという。そのメカニズムが分かれば、将来金星をテラフォーミングして、地球のような住みよい惑星に変えていくことも夢ではないかもしれない。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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