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障害者雇用で起こりがちなミスマッチ②「高いレベルの業務をしたいのに、簡単な仕事しか与えられない」(連載5回目)
(連載第5回)障害者専門の人材サービス会社「パーソルチャレンジ」に発足したパーソルチャレンジ Knowledge Development Project による、経営目線に立った障害者雇用の成功セオリー。障害者の人材紹介や雇用コンサルティングに携わる一方、自社でも多くの障害者を雇用する経験を踏まえ、企業と障害者がwinーwinの関係に近づくための「障害者雇用成功のポイント」を紹介します。
本連載は、書籍『障害者雇用は経営課題だった! 失敗事例から学ぶ、障害者の活躍セオリー』(2019年12月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。
障害者雇用は経営課題だった!失敗事例から学ぶ障害者の活躍セオリー
本連載の1〜4回目は、こちらからお読みいただけます。
パーソルチャレンジ株式会社ー障害者雇用を成功させる会社
障害者雇用を成功させる会社。パーソルチャレンジ株式会社の公式コーポレートサイトです。今回(第5回)の記事では、前回に引き続き、障害者雇用で起こりがちな問題を、事例をもとにご紹介します。障害者雇用で起こりがちな問題として、以下の三点をピックアップしました。
①「本人の能力や意欲以上に、高い業務レベルを求められる」
②「高いレベルの業務をしたいのに、簡単な仕事しか与えられない」
③「志向も能力もそれぞれ違うのに、与えられる仕事はみんな同じ」
どの問題も、障害者の志向とアサインする業務レベルがマッチしていないことが原因です。
業務レベルとは、業務の難易度のことで、求められる専門スキルや課せられる業務課題の達成難易度のことだとご理解ください。また志向とは、障害者の方が持つ、はたらく目的や意欲を表しています。
以降の事例を通して、問題の背景や企業が受ける影響などを知ることで、障害者雇用の原則を掴むことができるはずです。
ケース② 高いレベルの業務をしたいのに、簡単な仕事しか与えられない
前回ご紹介した「ケース①」とは逆に、意欲が高く活躍したいのに簡単な業務しか与えられず、悪影響が現れるケースもあります。
B社から相談をいただいたきっかけは、「一億総活躍社会」でした。
B社は誰もが知る一流企業ですが、業界一位ではありません。「人事制度を改革して社員全員が活躍すれば、必ず業界一位になるはずだ」という考えから、障害者の活躍についてご相談いただきました。
B社についても、もちろん現状把握のための調査から始めました。すると、障害者総活躍どころではない大変な事態になっていることが判明したのです。
【B社のプロフィール】
・社員数 30000名以上
・障害者雇用率は未達成の状況
企業ブランドが強く、障害者についても優秀な人材の採用に成功している一方、優秀な人材を活かせず、一部の障害者が不満を溜め、配属部署全体に悪影響を与えているという状況でした。
オーバースペック人材を活かせない体制
B社の採用方針は、優秀な方を狙って採用するというよりは、法令遵守型です。
しかしB社はネームバリューが高く採用力があったため、いわゆるオーバースペック人材からの応募も多くありました。
オーバースペック人材を雇用している企業について、業務と待遇の軸で見てみると、本人の成長意欲や職務能力と業務内容に差があり、人材として活用できていないケースが少なくありませんでした。
そこで、オーバースペックの方を分類してみたところ、次の五つのタイプに分かれていました。
・アシスタント業務にも待遇にも満足しているタイプ
・アシスタント業務には不満はないが、待遇に不満があるタイプ
・アシスタント業務には不満だが、難易度の高い業務にも挑戦しないタイプ
・難易度の高い業務に挑戦し、待遇に満足しているタイプ
・難易度の高い業務に挑戦し、待遇に不満があるタイプ
アシスタント業務では物足りず、難易度が高い業務に挑戦している方も二つのタイプに分かれます。
一方は、難易度の高い業務を担当することで自己実現意欲を叶え、待遇にも満足しているタイプ。
もう一方は、難易度の高い業務を担当しているのにもかかわらず、待遇が変わらないことに不満を感じているタイプです。
いくつか例を挙げてみます。
・キャリアや地位を持っていた受傷前の状況と現在のギャップを受け入れられず、いらだちを抱えている方
・他の雇用障害者と同じように見られたくない、自分は違うという意識が強い方
・自分ではよくやったと思っているのに、周りからの評価が得られず待遇も変わらないことに不満を持っている方
・難易度の高い仕事をお願いされたものの実力が伴わず、周りや自分を責める方
細かく分ければさらにいくつかのタイプに分かれますが、共通しているのは「自分は優秀だ」という意識が強く、現在活躍できていない状況を不満に感じているということでした。
B社は有名企業で待遇も他社にくらべれば良いこともあり、定着率は高水準です。しかし皮肉にも、悪影響を与える方が長期間職場にいるという状況が続いていました。
障害者のフォローは、配属拠点の管理者任せ
このような不満を溜めている方は決してまれなケースではなく、複数の拠点で見られました。
複数の拠点で見られたのであれば、「個人的な性格のせい」だけでは済まされません。構造的な問題として会社全体でフォローした方が効率も良く、本質的な改善が可能です。
それにもかかわらず、B社の経営層や人事部は全く問題を把握しておらず、会社としてのフォロー体制もありませんでした。
自分の人事管理評価が下がることを恐れて、各拠点の管理者が問題を上に報告していなかったのです。
B社では障害者の人件費が所属拠点ではなく人事部持ちだったため、生産性が低くても拠点の懐は痛みません。そのため、うまく隠し通せるという意識が強かったようです。
さらに、管理職が異動する際、悪影響を与える社員も含めて、障害のある社員の情報は全く引き継がれていませんでした。
人事部は配属後の状況を全く知らず、部署でも引き継がれていないため、場当たり的な対応が繰り返されるという悪循環が続いていたのです。
障害のある社員からは「私は障害について何回説明すればいいんですか?」という声が聞かれるほどでした。
B社は障害者雇用に関する管理者向けのフォロー体制がなく、障害者雇用に対する知識や考え方にかなりばらつきがありました。
障害者雇用に関する理解は、マネジメントの成功を左右します。
業務上の配慮事項については管理者から確認するべきです。「自分のマイナスポイントを伝えて解雇されたくない」という理由から、配慮してほしいことについて自分から言い出せないという障害者が多く存在するためです。もちろん、業務に関係ないことを興味本位で質問するのは論外です。
また、良かれと思って行った配慮が適切ではない場合もあります。障害者雇用を「善意」だけで乗り切ることは難しく、正しい知識が必要です。
障害者差別と合理的配慮について
ここで、障害者への適切な「配慮」について見ておきましょう。
どのような配慮が求められるかは障害者一人ひとりにより異なりますが、基本的な考え方(合理的配慮)がいくつか定められています。
障害者雇用に関する法的理解は、関連企業も含めた企業全体の信用に関わる問題です。重要項目だけでも構わないので人事部が中心になって周知するべきです。重要項目を見てみましょう。
不当な差別的取扱いの禁止
事業者が障害のある人に対して、正当な理由なく、障害を理由に差別することは禁止されています。
雇用の分野で、どんな行為が差別に該当するのかを知ることが必要です。
合理的配慮の提供
障害者が合理的配慮を求めた場合、負担が過重でないときは、必要かつ合理的な配慮をするように努めなければいけません。
雇用の分野での合理的配慮に基づく対応とその範囲、プロセスを知ることが必要です。
相談体制の整備、苦情処理、紛争解決の援助
障害者からの相談に対応する体制の整備が義務付けられています。障害者からの苦情を自主的に解決することも義務とされています。
解決しない場合は労働局に任せることになりますが、訴訟に至らなくても済むような対策も検討しておく必要があります。
合理的配慮の提供プロセス
(1)本人から必要な配慮に関する意思表明をしてもらうこと
(2)具体的に配属を考えている部署では、どんな配慮ができるか検討し、本人と話し合うこと
(3)どんな場面でどんな配慮ができるか、お互いに合意した上で実施すること
(4)配慮を実施したあとも、定期的にその内容や程度について見直し・改善をすること
このプロセスは、障害者本人には採用時に理解・納得してもらう必要があります。また、人事部門では配属前に、管理者には受け入れ時から実施してもらうことが望ましいです。
制度デザインの改正で、ミスマッチの是正を目指す
B社の採用に関して、私達は障害者雇用制度のデザイン改正を提案しました。
現状でもオーバースペックの方、スキルと担当業務のバランスが取れている方、業務レベルに満たない方など、様々な方が在籍していますが、今後は法定雇用率の引き上げに伴い、さらに幅広い層の採用・定着を目指さなくてはいけません。
そのため、障害のある社員を、「成長意欲の高い方」「現状維持を望んでいる方」「業務や継続勤務などの労働環境にネガティブな方」の三つに分けて、それぞれに合った施策を考えるべきだとご提案しました。
まず、成長意欲の高い方には、努力や能力が活かされる仕組みが必要です。現状維持を望んでいる方には、ストレスなく安心して活躍できる定着重視の仕組み。ネガティブな方には、問題を解決し、定着・活躍層へ引き上げられるような仕組みです。
複数の選択肢を準備し、その選択肢を公開した方が採用競争力が増すでしょう。もちろん、それぞれの業務、配慮、処遇などのメリットやデメリットを説明し、職種間の異動も可能にするべきです。
B社の場合、オーバースペックな方が不満を持っていることが問題になっていましたが、「オーバースペック人材はトラブルのもとになるから採用しない」というのは間違いです。
しかし、「オーバースペック人材を採用して、簡単な仕事だけをお願いする」というのもまた間違っています。意欲や能力に合った業務をお願いし、成果に合った評価と待遇を用意すればいいのです。
コストの面から見ても、オーバースペック人材に簡単な業務をお願いすることもまた「無駄遣い」と言えるでしょう。待遇をアップしてでも難易度の高い業務を担当していただいた方が、会社の生産性は向上します。「志向と業務レベルのマッチング」という基本的なルールを意識すれば、B社の問題も解決することができるのです。
言葉ひとつがD&I
B社ではその後、賃金体系を四段階に分けて、昇給できるようになりました。
嘱託社員のままですが、嘱託社員の中に賃金マップを作って段階的に評価し、等級を上げたり下げたりできるような仕組みを作ったそうです。
また、細かいことですが、障害のある社員に誤解されやすいコミュニケーションの齟齬についても、私達から何点かアドバイスさせていただきました。
例えば、社内研修の機会提供やデジタル端末の貸与にも注意が必要です。業務内容によって対象者が決まっていることは、どの会社も多いと思います。
それを「あなたは対象じゃないから、研修に来なくてもいい、端末を管理しなくてもいい」と言われたら、業務内容が理由なのか障害が理由なのかわかりません。なかには「障害者だから差別されている」と感じている方もいました。
最初から、「この研修はこの業務を担当している社員が対象です」と説明すれば誤解は生まれません。
「言葉ひとつがD&Iなんですね」と言われたこともありますが、まさにその通りだと思います。
「D&I」というと何か難しい理念のように感じますが、実際に落とし込まれていくのはこういった一つひとつのコミュニケーションです。
障害者に限らず、どんな方に対しても必要な考え方なのです。
※D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)……国籍や人種、性別、宗教、障害の有無などの属性の多様性と、就業時間や勤務場所、雇用形態などのはたらき方の多様性を認め、包括(インクルージョン)すること。
業務能力が高い障害者には、活躍の場を用意する
B社のオーバースペック人材の事例は、障害者雇用の盲点と言えるでしょう。
しかし、採用力が高い大企業なら、どこでも起こりうる問題です。マネジメント次第では生産性向上にも繋がりますので、ぜひ改善してみてください。
対処方法は、障害者の志向に合わせた制度を整え、選択できるようにすることです。
また、障害者雇用について正しい知識がない場合、良かれと思って行ったことでも障害者を傷付ける場合があります。
この問題は、定期的に研修を行うことで改善可能です。その際は、人事部や管理者だけでなく、配属部署のスタッフにも知識が行き渡るよう配慮してください。
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