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コウモリは飛行能力を獲得した後に、超音波利用能力を獲得 東大らの研究
渦巻管の形成過程を比較した研究(画像: 東京大学の発表資料より / イラスト:小笠原恵)[写真拡大]
東京大学と筑波大学でつくる研究チームは8日、コウモリは共通祖先が飛行能力を獲得した後に、分化した系統種が超音波利用能力を獲得したとする研究成果を発表した。コウモリはウイルスに対する強力な免疫系を有しており、研究チームは進化史の解明によって、コウモリが感染源とされる新型コロナウイルスなど、各種ウイルスの問題解決につながるとしている。
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秋吉台科学博物館名誉館長の庫本正氏によると、コウモリは、空中生活する唯一の哺乳類で、現在は南極と北極を除く熱帯雨林を中心に965種が生息している。現在でも新種が見つかっており、庫本氏は「大繁栄を続けている動物」と位置付ける。
ただコウモリの起源については、未解明な点が多い。特に祖先と見られる樹上生活をしていたコウモリ類の化石は、見つかっていない。すでに米国の始新世早期の地層などで発掘された現世のコウモリの化石とは対照的な様相を呈す。
さらに起源を巡る研究の中でも、高度な飛翔能力と、自らが放射する超音波の反射を捉えて障害物や餌を見る、エコーロケーション(超音波利用能力)という2つの能力は、どちらが先に獲得されたのかについて、論争の的になっている。
進化した後に超音波利用能力が失われたのか、系統に分かれた後に超音波利用能力が獲得されたのかー。コウモリの進化史を巡る論争では、すべてのコウモリが1度進化して、オオコウモリ類で超音波利用能力が失われた単一起源説と、3つの系統に分かれた後、系統の離れたキクガシラコウモリ類とヤンゴコウモリ類でそれぞれ個別に超音波利用能力を獲得した2回起源説の2つで意見が割れている。
研究チームは今回、論争の解決を図るため、超音波利用能力の発揮に関わる耳の渦巻き管と喉の成長に着目した研究に取り組むことにした。解像度の高いX線のマイクロCTを使い、世界に点在する34種のコウモリと、他の哺乳類における胎児期の成長解析と進化解析を実施。
すると、超音波利用能力を持つキクガシラコウモリ類とヤンゴコウモリの喉と渦巻き管は、成体になると、見た目が酷似したものの、形成のプロセスが全く異なることがわかった。
一方で、超音波利用能力を持たないオオコウモリ類の渦巻き管から喉にかけての器官群の形成プロセスは、他の哺乳類と違いがなかったという。これにより研究チームは、2回起源説を支持する構えを見せた。
さらに研究チームは、コウモリの化石を再検討した結果、米国の始新世早期やドイツのダルムシュタット付近で発見されている最古の化石は、超音波利用能力を備えていなかったとした。
胎児期の成長解析と進化解析の研究に加え、コウモリの化石に関する研究から、研究チームは、「コウモリは飛行能力を先に獲得し、3つの系統に分かれ、餌の捕獲に直結する超音波利用能力を2つの系統種に機能分化させた」と結論づけた。
研究は、文科省の学術研究領域「進化制約方向性」、日本学術振興会が主宰するドイツとの国際共同研究プログラムなどの一環で実施。研究成果は、国際学術誌「カレント・バイオロジー」に掲載されている。(記事:小村海・記事一覧を見る)
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