イギリスに出現した大火球と300gの隕石 マンチェスター大学

2021年3月10日 07:32

印刷

2月28日にイギリス上空に出現した大火球(画像: マンチェスター大学の発表資料より (c) The University of Manchester)

2月28日にイギリス上空に出現した大火球(画像: マンチェスター大学の発表資料より (c) The University of Manchester)[写真拡大]

  • 隕石サンプル(画像: マンチェスター大学の発表資料より (c) The University of Manchester)

 イギリスのマンチェスター大学は9日、大火球の破片を回収したと発表した。大火球出現のニュースは国内でも年に数回目にすることがあるが、それを起源とする隕石が回収されたという話にはあまりお目にかかれない。しかも、その隕石の重さが300gもあるともあればまさにビッグニュースである。

【こちらも】隕石に記録された情報は想像以上に失われやすい 東京工業大学の研究

 300gの隕石と言われてもピンとこないかもしれないが、例えば1等星クラスの明るさの流星は重さ1gにも満たない小さな粒子だ。大気圏を飛行中に摩擦熱で蒸発してしまうため、その粒子が地上に届くことはなく、大気をごくわずかながら汚染するに過ぎない。従って、まず隕石として地上に到達できること自体が奇跡的だし、しかもその重さが300gもあるというのは驚異的なことなのである。

 今回回収されたのは炭素質コンドライトだが、実は過去にこの種の隕石が見出された事例は数十例しかなく、これまた非常に珍しいことなのだ。隕石は、微惑星同士の衝突時の高熱で溶融した物質が固まったものがほとんどだが、炭素質コンドライトはその生成過程において200度以上に温度上昇した経験を持たないため、隕石中に炭素が残存している非常に珍しい存在なのである。

 この非常に珍しい隕石の所在を突き止めることが可能だった理由は、イギリス国内に多数設置されている監視カメラの映像によるところが大きい。隕石の軌跡を多くの映像によって分析することで最終落下地点の特定が迅速かつ正確に行えたためだ。しかも、この隕石が地表に到達する直前の速度(秒速14km)まで特定ができていると言うから驚く。

 また落下直後に隕石を回収できる意義も大きい。というのも地球に落下して長時間が経過してしまうと、地球大気による酸化や風雨にさらされて風化する影響により、本来隕石が持っていた様々な貴重な情報が汚染されてしまうからだ。

 炭素質コンドライトは太陽系誕生直後の物質がそのまま閉じ込められたタイムカプセルのようなものだ。しかも300gもあれば様々な分析が可能である。たとえ小惑星まで探査機を飛ばしても、300gものサンプルを回収することは到底不可能であることを考えれば、今回のニュースは珍しいだけでなく人類にとって非常にラッキーな出来事であったと言えよう。(記事:cedar3・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事