新しい大統領選に続く、新しい仕手戦の根源 ゲームストップ社株暴騰の理由 後編

2021年2月3日 08:05

印刷

 仕手筋が演出する値動きは、証券取引等監視委員会による不正調査の強化などにより発生しにくくなっているとはいえ、未だに不自然な値動きがないわけではない。

【前回は】新しい大統領選に続く、新しい仕手戦の根源 ゲームストップ社株暴騰の理由 前編

 そして、ここで問題となるのが機関投資家の存在だ。我々の年金を運用しているGPIFも、巨額な資産を運用している機関投資家の1つであるが、巨額な資金があれば、どんな企業の株価であっても一定の相場操縦が可能であり、仕手筋と何ら変わらないという見方も確かに一理ある。

 しかしながら、機関投資家の動きは株式保有のルールである「5%ルール」などで確認ができる上、資金の出所が明白だ。一方で仕手筋は、資金の出所が不明であることが多く、反社会的な勢力が関わっていることもあるため、いわば犯罪集団として認知されている。もちろん、株価操縦が可能な規模の企業しか対象としていない点でも、機関投資家とは異なるという認識だ。

 では、今回のゲームストップ社の株価暴騰は、機関投資家が起こしたのだろうか?それとも仕手筋が起こしたのだろうか?答えとしてはどちらでもない。ゲームストップ社が機関投資家の投資対象ではないことは明白だが、株価を釣り上げたきっかけを作ったとされる個人投資家が、この事件のはるか前から取引履歴を公開していたことから、その根源が明らかになっていく。

 この個人投資家は、2019年6月からゲームストップ社の株を保有し始め、その経営戦略に成長性を感じて保有高を増やし続けていた。まさにれっきとした株主たる株主であり、インターネット上への定期的な取引高の公開やYoutubeにおける実況配信で、ゲームストップ社への思いをひたむきに伝えてきた一般投資家だ。

 そんな一般投資家に徐々にファンが付き始め、いつの間にか1つの大きなうねりとなった。それは「レディット」というSNS上の意見交換から発生したうねりであったが、一般投資家たちがSNS上で結託し、株価の上昇を意図的におさえていた空売り投資家(ヘッジファンド)を打ち負かすことにチャレンジしたというのが、ことの顛末である。そして見事に成功したのだ。

 このような結託は、これまでは小さな波風でしかなく、個人投資家同士で株価を釣り上げることは問題視されていなかったといえる。しかし、表現の自由という言論を盾に、取り締まりが難しいインターネットの普及とSNSの存在によって、その状況が一変しつつあるわけだ。そう、トランプ支持者たちの大きなうねりも、「パーラー」というSNSから発生したものであると気付かされる。

 何かの目標に向けて隠れた活動をしている団体のことを秘密結社と呼んでいるが、SNSは秘密でも何でもなく、一部閉鎖されているはいるものの、目標を達成するための呼びかけ、ファン、仲間意識で作られたものだ。

 そんなSNSが1つの大きな原動力となり、金融市場までも動かすほど巨大なものとなっていることに驚きを隠しえないが、AIなどのフィンテックの影響も大きい現代においては、過去の経験則がますます通用しない時代になっていくのかもしれない。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

関連記事