地元由来ではないミズナラは地元のものより成長が遅い 森林総合研究所

2021年1月19日 08:43

印刷

成長速度は40%落ちていることを示す、北海道と岡山県の植栽木の生育面積当たりの幹断面積。他所の地域に由来する植栽木の値は(赤破線)は、地元の地域に由来する植栽木の値(赤実線)よりも小さく、成長速度が落ちていることがわかる(森林総合研究所の発表資料より)

成長速度は40%落ちていることを示す、北海道と岡山県の植栽木の生育面積当たりの幹断面積。他所の地域に由来する植栽木の値は(赤破線)は、地元の地域に由来する植栽木の値(赤実線)よりも小さく、成長速度が落ちていることがわかる(森林総合研究所の発表資料より)[写真拡大]

 森林総合研究所は14日、日本に広く分布する落葉広葉樹・ミズナラの種苗を異なる地域に植栽したところ、植栽した種苗の成長率が低下したほか、植栽した木と地元由来にあたる木の間で交雑が発生しているとの研究成果を明らかにした。

【こちらも】動物の果実食による種子の移動は温暖化から樹を守らない 森林総研らの研究

 広葉樹の種苗移動に関する研究はこれまで踏み込んで行われてこなかったが、今回の研究で、植え付け対象の種苗が地元由来か否かで成木に大きく影響することがわかった。同研究所は、研究成果を踏まえ、広葉樹の種苗移動について、地域に適したガイドラインの遵守を改めて事業者などに求めていく。

 広葉樹は近年、飛砂や騒音から、農地や鉄道、住環境を守る公益的機能を持つほか、人々のレクリエーション活動の場として役立つことから、皆伐地やのり面、崩壊地への造成や緑化が注目を集めている。

 森林機能の高さから期待は大きいものの、広葉樹は、種苗の流通が制限されているスギやヒノキといった主要針葉樹と違い、種苗移動が制限されていない。このため、産地や遺伝的素地が異なる広葉樹種苗が、1つの地域へ植栽され、もともと生えている自生の種へ遺伝的な悪影響を与えたり、生態系の変異を及ぼしたりすることが危惧されている。

 こうした状況を踏まえ、同研究所は、落葉樹の植林について、地元の種苗の使用を推奨する「広葉樹の種苗移動に関する遺伝的ガイドライン」を2011年に策定。その後、ミズナラやケヤキ、ブナといった主要広葉樹10種を対象に、ガイドラインに則った植栽を森林組合などに求めていたが、策定から10年の節目を迎えることから、ガイドラインの有効性を再検証することにした。

 再検証に際し、同研究所は、北海道と岡山県の試験地に全国の19産地から集めたミズナラを植栽。植栽木の遺伝型と成長を比べるとともに、試験地内のどんぐりから生えた芽生えの遺伝子型を調べた。

 すると、北海道と岡山県、いずれの試験地でも、他所に由来する植栽木は、地元由来の植栽木よりも成長速度が40%落ちていることがわかった。さらに、両試験地とも植栽木から落ちたどんぐりの芽生えは、地元に由来する植栽木の間に交雑の痕跡が見られ、同研究所が懸念する遺伝的攪拌の兆候があったことも判明。

 これにより、同研究所は遺伝的ガイドラインの有効性を認め、引き続き事業者などに遵守を求める考えを示した。一方で、気候変動に伴う環境変化によって、地域間での交雑で生じた種が、新たな環境に適応するケースも想定されることから、気候変動に加味したガイドライン策定を目指すとしている。

 研究成果は、森林学会の権威「フォレスト・エコロジー・アンド・マネジメント」に掲載予定となっている。(記事:小村海・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事