デジタル人民元に銀行口座不要のウォレットサービスか ポスト・米ドルへの布石にも

2020年10月1日 16:53

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 2020年9月4日のCoinDesk Japanに、興味深いニュースが掲載されていた。今年、中国最大手の中国建設銀行がモバイル用ウォレットを公開し、中央銀行発行のデジタル人民元の一時的なテストリリースを施行、ある程度の成功を収めたという。今回のモバイル用ウォレットは既存銀行の口座とひも付きであったが、今後は銀行口座が不要となる個人用ハードウォレットで、ユーザー個人が保管・取引を行うシステムへと移行させる可能性も示唆している。

 このニュースが意味するところは、中国14億人がデジタル人民元を自由に共有できることだ。中国では早くから電子決済サービス普及拡大を目的とした、『金融包摂・ファイナンシャル・インクルージョン』を進めてきた。その成果によって、2018年には中国成人の8割がキャッシュレス決済を利用するまでに至っているという。こういった通貨事情がベースにあるため、世界初のデジタル法定通貨の実装が実現されようとしているのだ。

 なお、中国が主導するアジアインフラ投資銀行でも、当然デジタル人民元が採用される流れであり、そうなれば中国周辺の発展途上国も、デジタル人民元による経済活動を進めていくこととなる。米ドルの価値が下落している現在、デジタル人民元の世界通貨としての地位も、今後高まる可能性がないとは言えない。

 ここで一つ気になるのが、アメリカ経済のデジタル通貨化である。実はすでに、アメリカの中央銀行・FRBは、ブロックチェーンベースのステーブルコインの開発に意欲をしてしている。このニュースが世に流れ始めたのはコロナ禍に突入してからのことだ。中国と比較すると、この出遅れ感には違和感がある。中央銀行の中枢であるFRBらしからぬ事態ではないだろうか。

 FRBがブロックチェーン型デジタル通貨に慎重だった要因として、フェイスブックが開発中のリブラがある。これまで米経済が執拗にフェイスブックが開発中の『リブラ』を敵対視してきた。民間企業が通貨発行権を持つことで、既存の金融システムを破壊する恐れがあるからだ。少なくとも中央銀行システムの脅威と、ただならぬ警戒感を見せている。

 FRBは率先して連邦金融監督局などを指揮しながら、このリブラ退治に躍起になってきた。デジタル通貨の欠点を列挙し、ダメ出しに徹してきた経緯がある。そのため、陰でデジタル通貨へ着手していることを公表できずにいたのは皮肉な話だ。

 ちなみに、民間企業のフェイスブックがステーブルコインとしてのデジタル通貨を運営することには社会的意義がある。中間搾取(多額の取引手数料)や中央管理を排除する純粋な通貨が世界初で実装される絶好のチャンスを、人類は見す見す逃すことになるからだ。これを中央銀行グループが看過するはずはないということだ。

 話をデジタル人民元に戻すが、世界の総人口からすると、FRBのデジタル通貨よりもデジタル人民元の方が流通力が高いとも推測できる。人口だけが流通力を決定するものではないが、将来的にはアジア圏の金融弱者も、銀行口座不要の個人用ウォレットで経済活動が行えるという可能性も、ないとは言えない。

 もちろん、社会経済はE2EE(エンドユーザー間の取引)によって、よりクイックリーでリーズナブルなトランザクションが可能となる。これは資産運用の面で大きなメリットだ。ただ、背後に中国がいるということは、それだけで大きなリスクも抱えると言うことになる。その点に留意しながら、デジタル人民元の行方には、日本の個人投資家も注視した方が良いだろう。(記事:TO・記事一覧を見る

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