鉱物から隕石衝突の規模を明らかに 実験で再現に成功 KEKなど

2020年9月8日 20:03

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隕石衝突履歴調査のイメージ図 (画像: 高エネルギー加速器研究機構、筑波大学、熊本大学)

隕石衝突履歴調査のイメージ図 (画像: 高エネルギー加速器研究機構、筑波大学、熊本大学)[写真拡大]

 隕石衝突によってクレーターが形成されることは今やだれもが知っている事実である。また小さな望遠鏡でも、月面には無数のクレーターが存在することは簡単に確かめられる。いっぽうで地球では、月面ほどにはクレーターを見つけることはできない。その理由は地球が生きた惑星だからだ。つまり地球には大気があり、風雨によって浸食されたり、風化作用でクレーターがぼろぼろにされ、長い年月を経るとその原形をとどめることが不可能になるためだ。

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 だが地球上では、クレーターは原形をとどめることが困難であっても、隕石衝突によって生成された鉱物は浸食や風化作用を乗り越えて、現在も歴史の生き証人として調査研究対象となりうる。高エネルギー加速器研究機構、筑波大学、熊本大学の研究チームは7日、実験室で鉱物にレーザー照射を行い、隕石衝突と同じ状況を再現することによって、隕石衝突時の詳細な鉱物生成メカニズムの解明に成功したと発表した。

 この研究では地球上に広く分布しているバッデレイアイトZrO2という鉱物を採集し、ウラン-鉛同位体年代測定法で採集地の形成年代を特定するとともに、その結晶構造を観察し、それと同じ構造の再現を実験室においてレーザー照射によって試みている。

 カナダのクレーターで採集されたバッデレイアイトは、多数の結晶から構成されているが、原子の配列方向に規則性があり、特定の方向を向いて並んでいる。だが常識的には、原子配列はそれぞれの結晶において同じ方向を向くことは考えにくく、ランダムな方向を向いているほうが自然だ。

 だがこの研究では、レーザー照射の衝撃波をX線回析測定により捉え、この奇妙な配列が起きるメカニズムを解明した。そのメカニズムは隕石衝突の衝撃波がバッデレイアイトに超高圧を与え、その圧力が解放されてゆくプロセスの中で原子配列が一定の方向にそろうというものだ。

 これはバッデレイアイトの1つのサンプル調査事例にすぎない。だが地球上の様々な場所から採集したバッデレイアイトの構造を調べ、それを再現するレーザー照射条件を求めていくことにより、その鉱物がどの程度の衝撃を受けて生成されたのかがこの手法によって明らかにできる意義は、非常に大きい。どこでどの程度の隕石衝突が起きていたのかを、クレーターの痕跡が残っていない地球で、月と同じように調べることができる夢の技術なのである。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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