体内での診断・治療を可能にするナノサイズの粒子を開発 山口大ら

2020年8月31日 06:35

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励起波長を変えることで、様々な深度のがん組織を観察することができる(画像: 山口大学の発表資料より)

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 ナノ医学という言葉を聞いたことがあるだろうか。体の中に非常に小さな「治療するナノマシン」を入れて行う医療のことである。ナノがどのくらい小さいのかというと、人の細胞の平均サイズが20マイクロメートル、その1万分の1が2ナノメートルということになる。

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 山口大学などの研究グループが今回開発したのが、体内に入れると目的の場所に移動して蛍光を発してくれる「有機シリカナノ粒子」である。このナノ粒子を用いて、体外からがん組織の観察や治療を行ったり、移植時に拒絶反応を起こそうとする免疫細胞の動きを捉えたりできるという。この治療法が確立されれば、患部を切り開くことなく、がんの状態の確認、治療や、移植時の拒絶反応の確認ができることだろう。

 研究は、山口大学大学院医学系研究科の中村教泰教授のグループが、徳島大学大学院の安倍正博教授、九州大学歯学研究院の林幸壱朗准教授のグループと共同で行なった。研究結果は24日付けのChemistry of Materialsで公開された。

 有機シリカナノ粒子のシリカという言葉でまず思い出されるのは、食品の除湿剤として使われているシリカゲルだろうか。シリカは二酸化ケイ素のことである。自然界では石英として存在しており、ガラスの材料にもなる。

 研究グループはこの二酸化ケイ素を用いて有機シリカナノ粒子を新たに作成し、国際特許を取得した。この粒子が持つ有機部分のおかげで、様々な機能性分子を粒子表面や内部に結合することができるという特徴を持つ。

 研究グループは、生体を通過しやすい波長である、近赤外蛍光色素IR-820をシリカナノ粒子に結合。この粒子を、腫瘍を持つマウスの血液中に注射で投与したところ、粒子はがん細胞に集積した。これはがん組織の血管が未熟で、ナノ粒子を透過しやすいというEPR効果によるものだ。

 このマウスに様々な波長の励起光を当て、実験を行った。波長が短いものは表面近くの粒子の色素を光らせ、波長の長いものは奥深くの粒子を光らせるため、それぞれの深度での腫瘍の状態を観察できた。この観察は、4カ月間継続して行ったという。

 また、この粒子がマクロファージによく取り込まれることを利用して、組織を移植したマウスの血中に有機シリカナノ粒子を投与した。するとマクロファージが移植組織に移動していく様子が観察できた。これは移植に対する拒絶反応の観察を可能にしたといえるだろう。

 近赤外蛍光・有機ナノシリカ粒子は生体内での毒性は少ないことがわかっている。これを用いて安全な診断が可能になるだけでなく、この粒子に治療効果を付けることで、診断と治療を同時に行うことも可能だ。

 今後は、診断・治療が与える患者への負担を減らしていくことができ、また医療だけでなく、生体内での生命現象の新たな発見へと繋げていくことも期待される。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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