アフリカ豚熱の侵入防止、鍵は空港での摘発と加熱処理の徹底 東大

2020年5月10日 09:18

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シナリオ分析の結果。中国におけるアフリカ豚熱の発生農家戸数(a)、豚肉製品の違法輸入確率(b)、エコフィードの加熱処理確率(c)、養豚農家における残飯の加熱処理確率(d)をベースライン(実際の値)から変化させた場合の年間侵入確率。各箱ひげの中の横線は平均、箱の長さは四分位範囲、ひげの上下端はそれぞれ95パーセンタイルおよび5パーセンタイルを示す。(画像: 東京大学の発表資料より)

シナリオ分析の結果。中国におけるアフリカ豚熱の発生農家戸数(a)、豚肉製品の違法輸入確率(b)、エコフィードの加熱処理確率(c)、養豚農家における残飯の加熱処理確率(d)をベースライン(実際の値)から変化させた場合の年間侵入確率。各箱ひげの中の横線は平均、箱の長さは四分位範囲、ひげの上下端はそれぞれ95パーセンタイルおよび5パーセンタイルを示す。(画像: 東京大学の発表資料より)[写真拡大]

 中国などのアジア諸国から侵入する恐れがある疫病の一つにアフリカ豚熱(ASF)がある。東京大学の研究グループは8日、ASFウイルスが日本に侵入する年間確率が20%であるという研究成果を発表した。この原因としては、主に中国からの航空旅客による豚肉製品の違法持ち込みなどが挙げられるとしている。

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 昨今の新型コロナウイルスに代表されるように、グローバル化に伴う人や物の国際移動は疫病の伝染にも大きな影響を与えている。特に動物由来の感染症の蔓延リスクは高まっており、正確な感染経路の把握と対策が求められている。2018年8月には中国にASFが侵入し、中国国内で拡大しているため、日本への侵入リスクも高まっている。

 ASFに関しては、かつて豚肉製品の違法落ち込みがウイルス侵入の原因となった事例が多数知られている。そこで研究グループは、中国からの航空旅客が不法に持ち込んだ豚肉製品による侵入確率について、定量的な予測を行った。評価モデルでは、不法輸入された豚肉製品が加熱処理されずに残飯として日本の豚に給餌される量の重量推定を行っている。そこからウイルス量を推定し、少なくとも1頭の豚がASFウイルスに感染する確率が予測されている。

 その結果、ASFウイルスは年間で20%の確率で日本に侵入すると予測された。ただし、90%予測区間が0から90%と幅広く、不確実性が高いという点に留意する必要があるともされている。また、中国でのASF発生農家数や豚肉製品の違法輸入などが変化することで、侵入確率が変化すると予測されている。

 さらに、日本国内で生産されている豚用エコフィードの加熱処理の条件によっても、侵入確率は変化する。現在日本国内で規定されている加熱処理条件であれば、ウイルスは確実に不活性化するが、それが徹底されていない場合は侵入確率が増加する。

 これらの研究成果から、訪日旅行者の豚肉製品違法持ち込み摘発と、エコフィードの加熱処理徹底が重要であることが示唆された。また、侵入リスク評価の精度向上のためには、さらなる知見の集積が必要であることも示されている。

 今回の研究成果は「PLoS ONE」誌のオンライン版に5日付で公表されている。

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