高速回転を維持する金星大気 60年来謎だったメカニズムをあかつきが解明

2020年5月1日 11:41

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金星大気の高速回転が維持されるメカニズム (c) Planet-C project team

金星大気の高速回転が維持されるメカニズム (c) Planet-C project team[写真拡大]

 地球と同じく岩石から構成される金星。地球と異なり、金星では「スーパーローテーション」と呼ばれる高速で大気が回転する現象が維持されている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月24日、長年謎だった金星大気の回転維持のメカニズムを探査機あかつきが明らかにしたという論文が、米Science誌に掲載されたことを発表した。

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■低速で自転する金星と遥かに上回る速度で回転する大気

 金星の自転周期は243日であり、地球と比べて自転速度は非常に遅い。その一方で金星を覆う厚い大気は、自転速度の約60倍で回転している。金星大気の高速回転の維持自体は1960年代に発見されているが、どのようなメカニズムにもとづくのかについては現在まで謎だった。

 米航空宇宙局(NASA)によるパイオニア・ビーナス・オービターや、欧州宇宙機関(ESA)によるビーナスエクスプレス等の人工衛星が、これまで金星大気の観測を長期間実施した。だが金星大気に関する仮説の検証にまでは至らなかったという。

■金星の気象を明らかにする日本の金星探査機

 JAXAが運営する探査機あかつきは、金星の気象を幅広く解明するのが目的だ。とくに金星大気が高速で回転する謎の解明が、最大の目標として掲げられている。

 あかつきは、紫外線や赤外線等の複数の波長をもつ電磁波で金星の雲の撮影を続けている。北海道大学とJAXAの研究者から構成されるグループは今回、取得された画像と温度に関するデータを詳細に分析した。その結果、熱潮汐波が金星大気の高速回転維持に貢献していることが判明したという。

 昼に熱せられ夜に冷却することで発生する潮汐波が、金星に存在する。この熱潮汐波が低緯度の雲の上付近ではもっとも強い流れをもつが、これが金星大気の高速回転を維持させていることが明らかになった。

 大気中に存在する潮汐波以外の波や乱れも、金星大気の高速回転を維持する候補だと考えられてきた。だがこれらの要因は逆に作用しており、中緯度において重要な役割を担っていることが判明した。これらの組み合わせがスーパーローテーションと南北方向のゆるやかな熱輸送を実現し、効率的に熱が分配されるという。

 研究グループは、あかつきによる金星大気の観測が、地球型惑星の大気循環の理解を深めることに役立つだけでなく、太陽系外惑星の研究にも応用される可能性があるとしている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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