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新型コロナで解き放たれる「灰色のサイ」——米中企業の過剰債務がもたらす未曾有の危機(2)【中国問題グローバル研究所】
*09:19JST 新型コロナで解き放たれる「灰色のサイ」——米中企業の過剰債務がもたらす未曾有の危機(2)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。
◇以下、中国問題グローバル研究所の白井一成理事の特別寄稿『新型コロナで解き放たれる「灰色のサイ」——米中企業の過剰債務がもたらす未曾有の危機(1)【中国問題グローバル研究所】』の続きとなる。
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あらゆる企業が大幅な業績の悪化を余儀なくされ、近いうちに経営危機や倒産も表面化してくるだろう。これらが導火線になり、上で見てきた灰色のサイが解き放たれ、負のサイクルに向かって大きく暴れ出すことになる。また、現状の売上減少による資金繰りを借入で繋いだ企業は、根本的に問題が解決するわけでなく、単に借入比率が高まっただけであるため、将来に起こりうる危機の火に油を注ぐ存在となる。このように、金融参加者の多くが与信提供先を信用できなくなる信用収縮が今回も引き起こされるはずであり、あらゆる人が資金を求めて殺到するあまり、市場の閉鎖や資金の蒸発などといった流動性危機に発展する可能性が高い。この段階では、いくつかのグローバルバンクの破綻懸念や、南欧や新興国の債務返済の問題が噴き出し、金融、経済の巨大なメルトダウンが起こっているはずである。
次に、中国の企業債務(非金融企業)は、冒頭でも述べたように、国際決済銀行(BIS)が公表している統計によれば、2019年9月末時点で20.5兆ドル(2,050兆円)に上る。この額はGDP比150%と、日本のバブル時のピークである147.6%を上回っている。新興国全体の企業債務はGDP比97%の29.3兆ドルだから、金額ベースでは中国が圧倒的である。ちなみに新興国全体の債務残高はGDP比188%と過去ピーク圏に位置しており、中国ほどでないが先進国を大きく上回る負債の増加ペースを示しており、債務比率が悪化している国が多い(2008年末は108%)。
中国の企業債務のうち多くは国内で調達されているとみられるが、格付け会社のフィッチによると、オンショアで債券を発行した中国の民間企業のうち、2019年1~11月のデフォルト率は過去最高の4.9%と、2014年の0.6%から上昇した。SAFE(中国国家外貨管理局)によれば、2019年9月末の中国の対外債務は2.0兆ドル(200兆円)で、短期対外債務は1.1兆ドル(110兆円)。企業部門(を表すと見られるその他セクター)の対外債務は0.6兆ドル(60兆円)、短期対外債務は0.4兆ドル(40兆円)である。中国は膨大な外貨準備(約310兆円)を使い、危機封じ込めのために最大限の努力をするだろうが、成功するかどうかは分からない。ただ、その結果、2014年をピークに水準が低下した外貨準備は、もう一段減少する可能性もある。
中国の1~2月の貿易収支は71億ドルの赤字となった。経常収支の赤字が恒常化すると、元安が加速する可能性が高まる。元安が加速すると、外貨建て債務の負荷が高まることになる。足もとでは緩やかではあるが、為替も対ドルで元安方向に動き始めた。
そうした状況のもと、中国では3月13日、中国共産党中央委員会政治局常任委員会が開催され、新しいインフラストラクチャーへの投資が論議された。21世紀経済報道によると、新しいインフラストラクチャーとは具体的に5Gインフラストラクチャー、Industrial IoT、超高圧(UHV)送電、都市間高速鉄道と都市間鉄道輸送、新エネルギー車と充電パイル、ビッグデータセンター、人工知能などを指す。今後の重大項目投資として、13の省と都市のインフラに関して総額34兆人民元(530兆円)を投ずることが公表されており、2020年には3兆元(47兆円)の投資が行われる。迫りくる未曾有の危機に先んじて、将来の投資を大胆に実行し、世界をリードする目算だ。
しかし、今回の危機はネガティブな側面だけではない。デジタル社会への大転換を、新型コロナウイルスが大きく加速させるという別の側面だ。デジタル化によって効率化や代替されるべき企業や社会構造が、既得権益や惰性で十分に効率化されずに今まで放置されていた。特に日本においては、旧来の重厚なインフラがあり、また国民や企業に危機意識も乏しいため、その傾向は顕著であった。今回、台湾のITによる高度なマスク管理が明らかになると、遅れをとっていた日本のそれが白日の下に晒され、アジアの先進国を自認していた日本国民は敗北感に打ちひしがれた。クルーズ船の対応が内外で批判的に報じられたことも、その感情に拍車をかけたであろう。
同時に、多くの人々がデジタル空間での滞在時間を増やし、またテレワークや電子決済の積極利用が効率的であることに気づいた。出張がWeb会議に切り替わるケースも増えているようだ。巣ごもり消費を余儀なくされる中、実店舗に強いとされるセブン&アイHDでもネット販売が増加している。教育・出版企業による学習教材、電子書籍の販売も増えている。エンターテインメント企業も動画配信を無料化したり、イベントを動画配信に切り替える動きも増えた。一連の動きは、休校やイベント・外出自粛への対応という面も大きいだろうが、デジタル産業によるユーザーの囲い込みという意味合いも含まれていよう。コロナウイルスの自粛が解禁されても、デジタル化の利点を改めて認識した人々や企業はデジタル依存を高め、実物経済への依存を下げるであろう。デジタル企業の存在感は一層増すことになるが、対称的に経済、金融危機の影響を受ける多くの産業は、強制的な再編や効率化を受け入れざるを得ないだろう。
このように能動的であるか受動的であるかに関わらず、今回の一連の危機があらゆる企業のデジタル化を強力に推進し、世の中に大規模かつダイナミックな転換を促す。このことは、デジタル企業と、改革に乗り遅れた企業との企業価値を大きく乖離させる。これは、この数十年で日本とアメリカの資本市場で起きたことの延長線上と考えるとわかりやすい。1980年代には、日本企業が世界の時価総額ランキングの上位を占めたが、今は見る影もない。3月19日現在、トヨタの時価総額が20兆円であり、NTTドコモの11兆円、日本電信電話の9兆円と続く一方、アメリカは、マイクロソフトが120兆円、アップルが110兆円、アマゾンが100兆円であり、日本と桁が違うことがわかる。ちなみに、足もとも2月19日以降の株価はアマゾンが15%安、ネットフリックスが14%であり、S&P500の32%安よりはもちろん、TOPIXの23%安よりも調整が軽微だ。
時価総額は将来キャッシュフローの現在価値であるため、時価総額が高いアメリカ企業は、それだけ投資家に未来を期待されているということである。また、トヨタの2018年の販売台数1,084万台に対して、テスラの販売台数は24万台、時価総額で8兆円である。テスラの時価総額は、532万台のホンダの3.9兆円を大きく上回っている。規模の経済性から考えると販売台数と時価総額は比例するはずであるが、このような差が出るということはテスラの販売台数が大きく増加することや、経営力への評価、さらなる事業拡大が漠然と期待されていることによる。テスラのビジネスモデルがいかに優れているかという証左であろう。
このような傾向は、今回の危機を機に益々高まっていくだろう。産業革命に乗り遅れたことによって西欧列強に蹂躙された過去を二度と繰り替えさないという決意のもと、中国は国家をあげてデジタル社会への転換に邁進している。
日本や日本企業には、果たしてそのような覚悟があるだろうか。今回のコロナウイルス危機が最後のチャンスであろう。これを奇貨としてデジタルへの転身を真剣に取り組まなければ、国家没落への道しか残っていない。
(本論はフィスコ世界金融経済シナリオ分析会議での議論をもとに執筆したものである)
写真:ロイター/アフロ
※:中国問題グローバル研究所 https://grici.or.jp/《SI》
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