新型コロナが世界経済を肺炎に追い込むか、人類の英知が厄災を克服するか? (下)

2020年2月27日 19:11

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 感染拡大の勢いが止まらない中国では工場の稼働再開がままならず、世界の製造業を混乱に陥れている。

【前回は】新型コロナが世界経済を肺炎に追い込むか、人類の英知が厄災を克服するか? (上)

 例えば、βという製品を完成させるためにA~Jまでの10の部品が必要だった場合、どれか1つでも欠けると製品は完成しない。多くのメーカーは広範な種類の部品を、中国を始めとする世界各地のサプライヤーに生産を委託し、集荷して製品に組み立てる。

 このビジネスモデルが機能停止に陥ると、マーケットに商品を供給することが出来なくなり、そのメーカーの売上が減少し経営内容が悪化する。投資家が企業業績への影響を懸念し始めた結果、世界同時株安が始まった。決定的なことが誰にも分からない以上、市場の動揺が社会の不安を煽り、更に市場が動揺を広げるという悪循環が懸念されている。

 更に心配なのは、中国の中小企業全てが潤沢な運転資金を持っている訳ではない、ということだ。一説によると、1カ月分程度の運転資金しか持たない中小企業が全体の3分の1にもなるという。

 1月中旬から操業を停止している企業の中には、資金が枯渇して事業活動の再開すら困難な先があるかも知れない。99%の部品が供給されても最後の1ピースがはまらなければ、商品にはなり得ない。多くの投資家が不安を募らせているであろうこの問題は、今回の新型コロナウイルス問題が懸念される背景の1つである。

 世界各国に感染が拡大する一方の新型コロナウイルスに関する、診断のスピードアップや、予防のためのワクチンや治療薬の開発が世界で進められている。時折伝えられる情報の中には医学的な知見に基づく見解がある反面、功名狙いの怪しげな情報も混在している。

その中でSARSの研究をもとにして進められている研究がある。当時SARSのウイルスを特定して分離し、特徴を解析するまでに1年ほどの期間を要した研究が、科学技術が進歩した現在では2週間程度に短縮化して成果を得られるようになったという。

 その結果、SARSウイルスと新型コロナウイルスには共通点があることが分かった。ヒトに感染する際に使用するウイルス細胞表面の「受容体」がどちらも同じ蛋白質だと解明されているようだ。

米国テキサス州のヒューストンにあるベイラー医科大学のピーター・ホテズ教授とその研究チームは、2月中旬現在で、3カ月以内にヒトを対象にした試験を始められそうだと期待を示している。

 この研究が目論見通りに進んだとしても、ワクチンとして完成するには早くても6月を超えることになるだろう。感染拡大の勢いが止まらないまま迎える6月の世界の景色を、予想することは困難だが、人心の混乱やマーケットの変調が収拾される時期に、1つの目安が立てられることは有り難い。

 感染症予防のイロハである、手洗い・うがいの励行とマスクの適切な利用が徹底した社会で、ワクチンが完成したという吉報を早く聞きたいものである。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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