火星への移動時間を半減させるプラズマ駆動ロケットエンジン

2020年2月13日 08:18

印刷

 2月10日にイギリスのエクスプレス誌で、画期的なロケットエンジンの試作試験結果に関するニュースが報じられた。このエンジンは、宇宙空間を10万MPH(マイル/時)で航行可能にできるという。

【こちらも】ESA、休眠状態で宇宙飛行士を運ぶ長期ミッション想定の乗組員室デザイン発表

 1マイルは1.61kmなので、このエンジンを採用すれば時速16.1万km、秒速44.7kmという画期的な航行速度が確保できることになる。近い将来計画されている火星探査では、その航行時間の半減を実現できるエンジンだ。

 この画期的なエンジンの試作を手掛けたのは、イギリスのPulsar Fusion社で、最終的には50万MPHを実現するエンジンを開発する計画であるという。Pulsar Fusion社は核融合を応用した製品開発を手掛けている会社で、今回開発したエンジンも核融合技術を採用している。

 その推進原理は、核融合炉においてアルゴンガスに大量のエネルギーを与え、高温プラズマを発生させ、これを推進力として活用するというものである。

 プラズマとは固体、液体、気体につづく第4の物質の状態で、高温で分子が電離し、電子と陽イオンに分かれて運動している状態を意味している。

 太陽風や星間ガスもプラズマであり、実は宇宙に存在する物質の質量の99%はプラズマであるとも言われている。また、我々の身近な存在としてのプラズマには、炎やカミナリ、オーロラなどがある。

 現在の技術で実現できるロケットの最高速度は4万MPH、秒速17.9km程度であり、これでは火星到達に最低でも6カ月を要してしまうが、核融合プラズマ駆動エンジンではこれを3カ月以下で実現できるという。

 最終開発目標である50万MPHが実現できれば、火星には20日以内で到達できるため、火星旅行がお金持ちの道楽の手段として注目を浴びるような、身近な存在になる可能性も秘めている。

 もし仮に片道20日間での火星旅行が実現できた場合、その恩恵は計り知れない。というのも地球は磁場や太陽風などによって、宇宙のあらゆる方向から降り注いでいる放射線から守られているが、宇宙空間ではそうはいかないからである。

 放射線はあらゆる生命体のDNAを破壊し、長期間それにさらされれば、その生命体のDNAには甚大な被害が及ぶのだ。現在、国際宇宙ステーションでは長期間にわたり、飛行士が宇宙に滞在してさまざまな科学実験をおこなっているが、実はその科学実験だけでなく、人間が長期間宇宙に滞在した際の放射線による被害についても、確認を並行して行っている状況なのだ。

 したがって火星旅行が片道20日以内、往復でも2カ月以内で実現できるようになれば、人体に及ぼす放射線の被害も極めて少なくできるのである。(記事:cedar3・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事