iPS細胞から誰にでも制約なく輸血できる血小板を作成 産業化視野に 京大

2020年1月9日 12:21

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今回の研究の概要(画像:京都大学発表資料より)

今回の研究の概要(画像:京都大学発表資料より)[写真拡大]

 京都大学は7日、血小板の型(以下HLA型)に関係なく、誰にでも制約なく輸血できる血小板を、ゲノム編集技術を使ってiPS細胞から作成することに成功したと発表した。研究グループでは、iPS細胞から血小板を1種類の製剤として生産することが可能になり、産業化につながるのではないかと期待している。

【こちらも】iPS細胞から高効率で血小板を量産する手法を発見、日本医療研究開発機構

■iPS細胞から血小板を作る場合の問題点

 少子高齢化の進展に伴い、献血ドナーの不足が懸念され、献血ドナーに頼らずに輸血用血液を確保する体制の確立が課題となっている。

 造血幹細胞をソースとする研究もおこなわれているが、さまざまな難題があり、先行するのはiPS細胞をソースとする研究だ。

 iPS細胞をソースとする研究では、すでに、iPS細胞から作成された特殊な巨核球株(以下、imMKCL)を使い輸血に必要となる量の血小板(1,000億個以上)を生産する技術が確立され、その機能と品質は献血による血液を十分に代替しうることが確認されている。ちなみに巨核球とは私達の骨髄内で血小板を作っている細胞だ。

 しかしこのようなiPS細胞をソースとする血小板の作成にも、問題はある。その一つが血小板におけるHLA型の問題だ。

 いわゆるA、B、O、AB型の血液型は、赤血球に関する血液型だが、実は血小板にも血液型があり、HLA型と呼ばれる。HLAは血小板の表面に抗原として発現しているタンパク質の1種だが、このHLAの型が異なる血小板を輸血すると、5%程度の割合で、輸血の効果がみられない血小板輸血不応症がおこる。

 この問題を解決するためには、HLA型ごとにimMKCLを用意すればよいわけだが、日本人の約9割をカバーするためには140種類のimMKCLを用意しなければならない。これでは手間とコストがかかりすぎる。

■iPS細胞からゲノム編集技術を使ってそもそもHLAが発現しない血小板を作成

 そこで研究グループは、まずゲノム編集技術を使い、iPS細胞のβ2ミクログロブリンというタンパク質を作る遺伝子を破壊した。β2ミクログロブリンはHLAが発現する上で重要な働きをする。

次に研究グループは、このβ2ミクログロブリン遺伝子を破壊したiPS細胞からimMKCLを、さらに血小板を作成した。このようにして作成された血小板はβ2ミクログロブリン遺伝子が欠損しているために、HLAが発現しない。

こうして、HLAが発現しない血小板の作成に成功したというわけだ。

 研究グループによれば、このHLAを発現しない血小板は、HLA型に関係なく万人に輸血できると共に、通常のiPS細胞から作成された血小板とその品質や機能において同等だという。

 また通常、HLAを発現しない細胞はNK細胞によって攻撃されやすいが、HLAを発現しない血小板はNK細胞によって攻撃されないことが、マウスを使った実験等により確認された。

 研究グループでは、1種類のベストなimMKCLを用意すれば、血小板を全てのHLA型に対応できる1種類の製剤として製造可能であり、産業化につながるのではないかと期待している。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る

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