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大腸がんや乳がんの「がん幹細胞」、制御機構を解明 治療法に期待 藤田医科大など
がん幹細胞は、がんの転移や腫瘍形成に大きなな役割を果たしている細胞である。今回の研究では、大腸がん幹細胞の増殖や腫瘍形成を制御しているマイクロRNAと、そのRNAに結合するたんぱく質を特定した。このマイクロRNAを抑制することで様々ながん、特に抗がん剤や放射線治療の効きにくいがんの治療効果を高めることが期待できる。
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今回の研究は、藤田医科大学の下野洋平教授、米コロンビア大学の向山順子博士、Piero Dalerba博士、神戸大学の鈴木聡教授、南博信教授、掛地吉弘教授、九州大学の三森功士教授らのグループによるもの。
がん幹細胞は、条件がそろえばがん組織全体を再構築できる能力を持つ細胞である。体のどこの細胞にでもなれる分化能力を持つ「幹細胞」と同じような性質があるがん細胞のことだ。がん組織のうちのほんの一部ががん幹細胞だといわれている。
マイクロRNAとは塩基数が20個ほどの非常に短いRNAである。それぞれの細胞は異なるマイクロRNAを産生し、遺伝子の働きを調節している。その中でもがんや認知症などで特徴的に増えるマイクロRNAなどを診断に利用するシステムの構築も、現在進行している。
今回研究グループは、大腸がんの手術で摘出した腫瘍組織からがん幹細胞を取り出し、700種類以上のマイクロRNAについて調べた。するとmiR-211というマイクロRNAががん幹細胞でのみ非常に多く作られていた。がん遺伝子のデータベースで調べたところ、miR-211が多く作られている大腸がん患者は、そうでないものと比べて予後が悪いことがわかった。(図B)
大腸がん幹細胞のmiR-211の発現を抑えると、がん幹細胞が本来持っている、増殖や腫瘍形成などの能力が著しくさがった。(図B)
さらに、miR-211と結合するRNA結合たんぱく質であるQKI-5の発現を増やすと、miR-211を減らした時と同じように、がん幹細胞の能力は著しく落ちた。(図C)
これらの結果より、miR-211とその結合たんぱく質QKI-5ががん幹細胞を制御し、その腫瘍形成能力や増殖をコントロールすることが明らかになった。今回使用した大腸がんだけでなく、乳がん幹細胞でもmiR-211が増加していることがわかっている。
今後、miR-211を抑制する治療法を開発していくことで、様々ながん種、そして予後の悪いがんの治療効果をあげていくことが期待できる。
研究の詳細は2日、Cancer Researchに掲載された。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)
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