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進化する液系リチウムイオン電池、全固体だけでない次世代電池
近年EV業界において全固体電池に対する期待が高まっている。トヨタなどの多くの企業、研究機関が実用化に向けて研究開発に尽力していることは周知の事実である。しかしその一方で、全固体電池と異なり従来通り液体の電解質を用いたいわゆる「液系リチウムイオン電池」も無視できない。
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液系リチウムイオン電池が次世代電池として業界を再び席巻する可能性を示唆する研究成果も続々と発表されている。7月15日にNature Energy誌で発表されたカナダ・Dalhousie大学の成果もその一つである。
この研究成果のポイントは、新しい2種類の塩の組み合わせを電解質に用いることである。それによって負極フリー(リチウム金属の電析反応を用いる)のリチウムイオン電池を、デンドライトによるショートの危険なしで用いることができるという。これが実用化されれば、現在全固体電池において期待されているものと同等以上のエネルギー密度の大幅な向上が期待できる。
2種類の塩をブレンドすることによる反応メカニズムの変化は、多岐に渡る。電極と電解液に安定な界面を生成するだけではなく、界面上で発生するガスの抑制効果も観測された。また、それによって電解液の消費も抑えられることから、より長期にわたり容量が持続するとのことだ。
このように、電解質の改良による性能向上のメカニズムは単純ではないが、大きな可能性を秘めていることは間違いない。この研究以外にも、液系リチウムイオン電池において電解質を工夫することによって、負極フリーを実現する取り組みは多数ある。つまり、エネルギー密度の面において液系リチウムイオン電池も全固体電池に負けず劣らず進化しつつあるのだ。
電解質の成分を工夫することによって得られるブレイクスルーの成果は、エネルギー密度の大幅な向上に留まらない。東京大学は2017年11月に、電解質を高濃度化することで電池性能を損なわず、「消火性」を保持させることに成功したとNature Energy誌上で発表している。このように、液体の有機溶媒を用いた電解質であっても、現在の課題である安全性を解決できる可能性は示されている。
最近では中国の電池メーカー・寧徳時代新能源科技(CATL)も全固体電池の性急な商品化に疑問を呈していると報じられていた。
その理由として、一つは生産技術も含めたコスト面への対策が確立されていないことが挙げられる。しかしそれ以外に、現在の液系リチウムイオン電池がコスト面でも性能面でも伸びていることも理由の一つである。全固体電池だけではなく液系リチウムイオン電池の進化も、要注目である。
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