全日本柔道選手権 戦いから伝わった柔道の神髄

2019年4月30日 12:48

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 柔道の男子日本一を決める全日本選手権が29日行われ、ウルフ・アロン(了徳学園職)が決勝で加藤博剛(千葉県警)を降し、初優勝を飾った。連覇が期待された原沢久喜(百五銀行)は準々決勝で敗退した。

■攻め切って掴んだ初の頂点

 23歳の初優勝は全て、試合を技で決着をつけたものだった。

 ともに1つずつ指導を受けてもつれ込んだ延長戦。開始15秒で巴投げを繰り出したのは加藤。ウルフの身体が一瞬浮き上がるがこれを畳に両手をつきこらえた。その後、前に出ながら相手の右袖を掴むと小内刈りを狙うが今度は加藤がうつぶせになりしのぐ。さらにウルフは左手で奥襟を執拗に握り圧力をかけ続ける。時間と共にやや動きが止まった加藤をさらに捕まえると、タイミングを見極めての支えつり込み足。加藤の右足を蹴り上げるようにして体を転がし、完ぺきに崩して技ありを奪い勝負あった。

 既に今夏の世界選手権代表にも決定していたことから今大会出場への重要度を問う声もあったというが「(日本一を)獲れる時にとる」と意に介さず、日本一を狙うためこの日の畳を踏んだ。

 準々決勝で3度優勝の王子谷剛志、準決勝では小川雄勢との対戦、体格・体重も自身より大きく上回る相手を降してきた。一転して決勝で対した加藤は一階級下の相手と、無差別級ならではと言って良い戦いが続いた中、スタミナを活かして攻めの姿勢を貫き、最後まで自分の色を出し切った。「思っていたよりも何倍も嬉しい」涙を隠すことなく、喜びを語った。

■無差別級で見えた柔道の醍醐味

 柔道の神髄を垣間見た戦いの連続ではなかったか。

 平成最後、体重無差別で選手権者を決める大会、最後に向かい合った2人は何れも体格に勝る相手をなぎ倒してきた末の決勝だった。普段90キロ級の加藤博剛は全対戦が体格差の大きい中、全て一本を決め勝ち上がった。

 特に3回戦、五輪王者の故・斎藤仁氏の次男、斎藤立との試合では、17歳と若く体重も155キロの巨漢に対し、33歳の加藤は終始主導権を握った。積極的に組に行き、序盤、足技で倒し有効でリードすると、自ら倒れこみながら帯を取るなど休むことなく細かい動きで相手を翻弄。最後は関節技を狙い、斎藤が仰向けになったところを逃さずに袈裟固めで抑え込み。独特のペースで体格差を消し、見事なまでの試合巧者ぶりを発揮しての完勝だった。

 7年前の選手権覇者は経験を武器に「柔良く剛を制す」という、力だけではない柔道の醍醐味をその戦いぶりで表現していた。(記事:佐藤文孝・記事一覧を見る

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