【投資の真髄:トヨタ生産方式(2)】グローバル(ロット)発注は無駄の源!

2017年8月24日 17:02

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 トヨタ生産方式は「数千倍の資金効率」であると信じることが出来ない人々が多数である。「造り方で資金効率が決まる」ことを理解できる投資家も稀だ。日本の高度成長に「トヨタ生産方式」が大きく貢献したことに気付いている経済学者に私は出会ったことはない。後に説明するが、製造業だけでなく、物流もサービス業も、在庫の存在が問題であるのだ。これを解決するのが「提案型販売」であり、ロット管理から解放されることが要になるのだ。

【前回は】【投資の真髄:トヨタ生産方式(1)】多種少量生産による数千倍の資金効率

 なぜかと考えると、統計数字で見る経済学では、結果しか見ることが出来ない。資金量が少なくて済んでも、多くかかっても、GDPなどの数値では経過が分らない。トヨタが結果よりも経緯を重要視する考え方が、そこにもあるのだ。メカニズムが確立していく過程を重視しないと、品質保証は成り立ない。

 品質保証が出来ない動作は、どれもシステムとして安定して機能することが出来ないのだ。TNGAは新システムだ。メカニズムを確立できなければ失敗となる。偶然の結果ではないのだ。

■グローバル発注、つまり「まとめて作る(ロット生産)」は無駄の源

 メガ・サプライヤーの発生など、海外では部品を作る専門会社に部品供給を任せる手法が主流だ。日産自動車を買収したルノーは、カルロス・ゴーン社長を通じて、日本の下請け制度を根本から改め、部品のグローバル発注を基本とした。それは「最も安い価格の部品」を探すことが出来るからだった。その概念にはロット納品された部品の管理にどれほどの資金が必要かは含まれていない。

 一方で、トヨタは下請け制度を維持して、基本的な体制を崩してはいない。下請けの部品納入は1時間ごとで、原則としてラインに在庫を置かないことを前提としている。建設・産業機械では、これほど徹底した在庫管理をしていなかったが、40年ほど前でも、トヨタ生産方式を採用していた井関農機の仕事では、半日単位の納品だった。生産量が農業用機械では1ケタ以上違うのでこの程度で済んでいたのだった。

 この在庫が発生することを極力抑制することが「トヨタ生産方式」の要だ。材料仕入れから仕掛在庫、完成品在庫、などを合わせると膨大な在庫が社内に眠り、置き場所、運搬手段、管理など計り知れない資金が眠っていた。

 グローバル発注で「安い単価」とされて1個当たり単価が安くても、その取り回しにかかる資金を計算していないと、実態は見えてこない。例えば1時間に1個ずつ納品されてくる部品と、1,000個づつ納品されて倉庫に保管、先入、先出管理をして1個づつラインに運んで投入する部品の資金量を比較すると、大きな差が出ることが分かる。

■仕掛在庫は、工程の数ほど存在する

 私の会社のハブ・ドラムの生産ラインでは、NC(コンピュータ制御)旋盤の段取りが進んでいた。工程管理を指導していたコンサルタントが「1工程で降ろすんですか?2工程と繋げた方が有利ですね」と加工には素人であるがために、「運命の一言」を発したのだった。

 「そうか、1・2工程を連続して出来れば、いったん仕掛品を降ろし、運搬して保管する手間が省けるのだ」と気付いたのだった。建設車両のハブは、自動車と違って、人が片手で持てる重量ではなく、平均で50kgほどあり、最大では120kgほどあった。クレーン、今ならロボットなどで持ち上げるしかなく、運搬する動作は大変な時間と手間が必要だった。手間だけでなく「一時保管場所」が必要なほどの大きさで、中間在庫の山を保管する倉庫とクレーン、フォークリフトなどの設備が必要だった。天井走行クレーンを必要とするので、建物自体も重量鉄骨の大掛かりなものだった。さらにはクレーン、フォークリフトの国家資格を必要としており、人件費の増大を含めると計り知れない資金量の増大があり、土地代金を含めては正確には計算できないほどだ。

 グローバル発注では、納品は船便が基本で、ロット納品が必要である。どのように合理化しても、コンテナの持ち運びなどを考えると、物流のコストは部品単価の少々の低下などでは補えないほどなのだ。さらにまずいことは、その無駄に気付かず、「必要な作業であり、経費である」と感じていることだった。

【投資の真髄:トヨタ生産方式(3)】組織運用「もっといい車をつくろうよ!」 につづく(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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