証券業界決算、個人向け不振でネットは苦境、「法人、海外」大幅増益の野村はV字回復

2017年5月1日 16:31

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記事提供元:エコノミックニュース

 ■「トランプ・ラリー」でも呼び戻せず、国内の株式売買はアベノミクス以来最低

 4月28日、証券業界主要5社の2017年3月期本決算が出揃った。

 総合証券最大手の野村HDと大和証券Gは、野村の増収2ケタ増益に対し大和は減収2ケタ減益で、明暗がくっきり分かれた。ともに国内の個人向け営業は不振だったが、法人部門、7期ぶりに黒字化した海外事業で完全にカバーした野村に対し、法人営業も海外事業もアセットマネジメントも野村の後塵を拝している大和には、それができなかった。

 カブドットコム証券、松井証券、マネックスGなどネット証券の業績は個人投資家の株式や投信の売買に依存する度合いが高いが、年度平均の1日当たり株式等個人委託売買代金が前期の1兆3385億円から1兆884億円へ18.7%も減少し、アメリカ大統領選挙の前はリスクオフで連日1兆円を割り込んだ。現物取引も信用取引も売買がアベノミクス開始以来最低を記録しては、減収減益やむなし。

 2016年11月のアメリカ大統領選挙直後から始まったいわゆる「トランプ・ラリー」のリスクオン、株価上昇局面も、日本での1日当たりの株式等個人委託売買代金はかろうじて1兆円を超えた程度で商いはそれほど活発にならず、国内営業にアベノミクス相場初期ほどの好影響をもたらさなかった。

 なお、マーケットの動向に大きく左右される2018年3月期の業績見通しは、証券業界の慣例で各社とも非公表となっている。

 ■野村は「法人、海外」でV字回復。個人の株離れでネット証券は深刻

 2016年3月期の実績は、野村HD<8604>は収益合計0.4%減、収益合計(金融費用控除後)0.5%増、税引前当期純利益95.4%増、最終当期純利益82.1%増で、前期の大幅減収減益に対して利益がV字回復をみせた。当期純利益は米国会計基準を適用した2001年以降では2006年3月期に次ぐ2番目に高い水準だった。年間配当は前期比7円増配の20円。

 全体では「法人、海外」が、税引前利益41%減の「個人」の不振を補って大幅増益につながった。ホールセール部門(法人部門)は債券トレーディングなど金利関連ビジネスが特に好調で、前期の減収減益から増収増益に転じ税引前利益は10.5倍。海外では事業再編、人員削減を行ったビジネスモデル変革の成果で収益性が改善し、損益分岐点が下がって念願の全地域黒字化を達成した。海外事業全体の税引前利益は会社計画の500億円を上回る881億円に達し、7期ぶりの黒字。アセット・マネジメント部門は資金流入が続いて投資一任残高が着実に増加し、運用資産残高は過去最高更新。東芝や日本郵政が海外関連会社の巨額損失でつまずき逆風が吹いているが、北村巧CFOは「今後は海外でM&A関連事業を強化していく」と話している。

 大和証券G<8601>は営業収益5.7%減、純営業収益8.2%減、営業利益20.8%減、経常利益17.9%減、当期純利益10.9%減で、2期連続の減収、2ケタ減益。前期よりも改善したのは当期純利益だけだった。年間配当は3円減配の26円で、最終利益が過去最高だった3期前から8円減っている。

 個人向け営業部門の手数料収入は1割以上減少したが、海外部門は7期ぶりに経常黒字を達成。リテール(個人向け)部門は減収減益でも、債券売買を主力とするホールセール(法人向け)部門は増収増益だった。それは野村と同じだが、純営業収益でリテールが全体の4割を占めホールセールとほぼ同じ規模があるため、ホールセールの業績好転でリテールの悪さをカバーできなかった。リテールのラップ口座の契約資産残高は下期にロボ・アドバイザーなどの新サービスを投入して伸びたが、アセット・マネジメント部門の業績は減収減益だった。

 カブドットコム証券<8703>は営業収益は4.4%減、純営業収益は15.0%減、営業利益は29.3%減、経常利益は31.9%減、当期純利益は25.1%減。前期の過去最高益更新を含んだ増収増益から一転、減収、大幅減益に裏返ったが、年間配当は12円で据え置き。システム関連収益を除く全部門、全商品で取引が減少し、投信関連収益もトレーディング損益もマイナスで、販管費を2%減らしたコスト削減努力も報われなかった。預かり金が5355億円に積み上がり、投資家の資金が次のチャンスまで待機している。

 松井証券<8628>は営業収益19.5%減、純営業収益19.7%減、営業利益31.3%減、経常利益31.1%減、当期純利益27.5%減で、泣くも笑うもマーケットの活気次第とはいえ2ケタの減収減益。年間配当は12円減配して33円だった。受入手数料が21%減、金融収支が18%減という状況でありながら広告宣伝費12%増をはじめ販管費は3%増えた。AI搭載のロボアドバイザーが最適なポートフォリオを提案する「投信工房」の拡充を図っているが、業績は深刻でつぶ貝など食べている場合ではない。

 マネックスG<8698>(国際会計基準)は営業収益15.6%減、税引前利益79.0%減、当期利益95.4%減、当期純利益91.6%減の2億9800万円で、前期の増収、最終増益から、最終赤字はかろうじて回避できたような大幅減収減益に暗転した。年間配当は4.4円減配して5.2円。マネックス証券など日本国内では受入手数料21.4%減、トレーディング損益20.7%減だが販管費は逆に7.4%増。為替のドル円レートも香港ドル円レートも期中平均で前期比9.5%円高に振れたため、アメリカ事業も香港中心のアジア・パシフィック事業も、円建ての収益が目減りした。(編集担当:寺尾淳)

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