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【柔道】全日本選手権総括 波乱、軽中量級からの挑戦、初の女性審判
王子谷剛志(旭化成)が連覇を達成して幕を閉じた今年の柔道全日本。しかし、優勝者以外にスポットを当てると、思わぬ波乱あり、軽中量級からの挑戦あり、それぞれの全日本選手権があった。
ここでは、優勝者以外にスポットを当てて、今年の全日本選手権を振り返る。
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■3回戦でまさかの波乱
全日本選手権は体重無差別で行われるため、毎年何らかの波乱が起こる。今年は3回戦でその波乱が起きた。
全日本選手権は15年に初優勝。昨年のリオ五輪では、100キロ超級でテディ・リネール(フランス)に敗れたものの銀メダルを獲得し、今大会も優勝候補の一人に挙げられていた原沢久喜(日本中央競馬会)。
初戦(2回戦)の新井信吾(埼玉県警)戦は動きが重かったものの、開始1分手前に大内刈で「有効」を奪うと、横四方固に入って一本勝ちした。
しかし、3回戦の百瀬優(旭化成)との試合で、波乱が起きた。
試合開始に組み勝って、得意技の内股を仕掛けたものの巧くつぶされると、寝技で攻め込まれた。百瀬に送襟絞を仕掛けられると、途中体を裏返して一度は逃げかけたものの、そのまま極められうつ伏せになって絞め落とされ、わずか38秒で一本負けを喫した。
すぐに活法で起こされると意識を取り戻したものの、しばしぼう然。試合後は医務室で休んだ後、インタビューに応じ、「絞め落とされたのは初めて。寝技への防御が甘かったこともあるが、何もできなかった」と肩を落とした。
リオ五輪以降は、グランプリ・デュッセルドルフで2位、選抜体重別は3位、今回3回戦敗退で3大会連続で優勝を逃している。「落ちるところまで落ちた。五輪を経て成長したつもりだったが、何もできていない。気持ちを切り替えて頑張るしかない」と前を向いた。
また、昨年5位の小川雄勢(明治大学)も3回戦で垣田恭兵に指導2で敗れた。
なかなか自分優位の組手になれず、隙を突かれて足技で攻められるなど苦しい展開となった。ゴールデンスコアに入っても同じような展開が続き、最後は8分47秒「偽装攻撃」の反則を取られて敗れた。
試合後も納得がいかないのか、憮然とした表情で引き上げた。
■高校時代に習得した寝技が活きて、準々決勝進出
原沢が敗れた試合で主役となったのが、今大会限りでの引退を表明していた百瀬。
実は昨年末に現役引退を決めており、1月からは所属でもある旭化成のコーチに就任した。しかし、その後翻意して全日本の予選に出場することを決意。所属選手の指導に忙しく自分の練習はほとんどできなかったが、何とか九州予選を突破して代表権を手にした。
その後も練習はもちろん他選手の研究さえまともにできなかった。
しかし、百瀬が卒業した国士舘高校・大学は「寝技の国士舘」と言われるほど、軽量級から重量級まで寝技が得意な選手が多い。そこで培われた寝技を駆使して、見事に原沢を絞め落とした。
今大会は1回戦から登場。最終的には高校・大学で先輩になる加藤博剛(千葉県警)に敗れたものの、最後の試合で3勝をあげて有終の美を飾った。
■2度目の挑戦は初戦で一本負けも、会場を沸かせる
リオ五輪73キロ級金メダルの大野将平が、推薦選手として全日本選手権に出場。前回も世界選手権優勝者に与えられる推薦枠を使って出場しており、14年以来2度目の出場となった。
今大会は2回戦から登場。90キロ級の池田賢生(日本中央競馬会)と対戦した。序盤から果敢に内股などを繰り出して攻めたが決めきれなかった。本戦は指導1と指導2を与えられたまま終了、ゴールデンスコア(GS)に突入した。
ゴールデンスコアもお互いに攻め合うものの、大野は徐々にスタミナを消耗。池田に攻め込まれる場面も目立ちはじめ、指導2で並んだ。
その後も池田が攻勢を取ると、9分54秒に放った大外刈が大野を捕え、池田が一本勝ちした。
2度目の挑戦は初戦敗退に終わったものの、場内は大歓声に包まれた。
■全日本選手権に史上初の女性審判員
17年の全日本選手権から女性審判員が起用された。
全日本選手権の審判団は15人で構成されるが、全日本柔道連盟(以下、全柔連)より女性審判員として松田基子氏、天野安喜子氏、樽谷哲子氏の3名が入った。
天野氏はこれまで五輪や世界選手権などでも主審・副審を務めてきたベテラン審判員だが、「全日本選手権には独特の緊張感があったが、いつもどおりにジャッジできた」と語った。
また、樽谷氏は「平常心でできたと思う。今回は歴史的な一歩となるが、女性審判員がいる光景が当たり前になるようにしないといけない」とコメントを残した。
女子柔道振興委員会委員長を務めている松田氏も無難に審判を務め、「日本柔道界にとって大きな一歩となった。これも先輩方のおかげ。次の世代にバトンタッチできるように頑張りたい」と語り、決意を新たにした。
全柔連の西田孝宏審判委員長も3名の女性審判員を高く評価しており、「男女の区別なく、審判員全員が高い技術を持っていた。構成比率も変化していくだろう」と語った。(記事:夏目玲奈・記事一覧を見る)
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